アスピドケロン

今回はアスピドケロン、別名ファスティトカロンの解説です。
中世では百科辞典に掲載されたため、実在するとの誤解があったかもしれませんね。
その姿は島のような大亀、あるいはクジラのような魚と考えられてきました。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
  3.能力考察
 

1.姿形

アスピドケロンの姿は、島のように見える大亀です。
その甲羅はまるでコケの生えた岩石であり、水面に出た甲羅は島と見間違えるほど。

しかし、後世になると亀から魚のモンスターに変化していきました。

 

2.由来

アスピドケロンの名前はギリシャ語のアスピドケローネ(蛇亀)が由来です。
別名、ファスティトカロン(大洋の流れに浮かぶもの)。

ギリシャ語の名前を持ちますが、ギリシャ神話には未登場という謎の多いモンスター。

中世に流行したフィシオロゴスという書物(キリスト教視点の百科事典。)に登場し、「アスピドケロンを島と勘違いして上陸した船乗りたちが、船をつないで火を焚いたところ船ごと全部沈んでしまった。」という伝承が紹介されています。

この書物では、食事の時は魚たちを口の香りで誘い出して丸呑みにするという説明もされていて、マッコウクジラと同じ食事方法だと考えられていました。
(ちなみに、マッコウクジラの出す香りは、龍涎香りゅうぜんこうと呼ばれます。)

アスピドケロンの正体はクジラの見間違えではないかという説にもとづき、フィシオロゴスの後継作品であるべスティアリウム(動物寓意譚)の挿絵では、亀ではなく魚の姿で描かれるようになります。

更に時代が進んで中世後期になると、香りで魚を誘い出すイメージから、アスピドケロンは人を破滅に誘う悪魔の象徴であるという説もでてきます。

しかし悪魔としてのイメージは定着せず、現代では亀や魚の姿に戻ってきました。

 

3.能力考察

アスピドケロンは巨大で堅い甲羅を持ちますが、島と勘違いされるほど動きが少ない生物。
背中に人が乗っても火を焚かれるまで反応しなかったことから、感覚が鈍く凶暴性も低いことがうかがえます。

その巨体ゆえ船で近づけば衝突したり、動いた余波による転覆てんぷくなどの危険はありますが、離れていれば安全でしょう。

クジラの龍涎香は天然香料として高値で取引されます。
また、海亀の甲羅は工芸品、アクセサリの素材として珍重されてきました。
その結果、クジラも海亀も人に乱獲されてきた歴史を持っています。

アスピドケロンは人を襲うモンスターではなく、人に襲われるモンスターなのかも知れません。