ゲームでは最強のドラゴンとして登場する人気者、バハムート。
でも元々は草食動物。カバでした。
それがどうしてこうなったのか。
今回は旧約聖書を紐解きつつ解説します。
(目次) 1.姿形 (1)カバのベヒモス (2)巨大魚化 (3)悪魔化 (4)竜化 2.由来 3.能力考察 4.小ネタ (1)旧約聖書 ヨブ記40章
1.姿形
(1)カバのベヒモス
ベヒモスの登場はとても古く紀元前5世紀頃、旧約聖書のヨブ記やエノク書に原点があります。
最初期の頃は聖書にある特徴のとおり、カバやサイあるいは牛のような姿で描かれ、ゾウがモデルという説もありました。
しかし、いずれにしてもちょっと大きい普通の動物だったのです。
(2)巨大魚化
ベヒモスは時代が進むに従いどんどん巨大化していきます。
動物だったものが、世界を支える、世界よりも大きい生物とされるようになるのです。
そして、変化の過程でベヒモスの設定・異説が増えていきます。
- 本来は海の生き物で、リヴァイアサンと同種の生物。
- リヴァイアサンと一緒に海にいれると、水が溢れてしまうので、神様がベヒモスを陸に揚げた。
- ベヒモスが雄、リヴァイアサンが雌。(どっちも雄だという説もあります。)
- 目の前を超スピードで泳ぎ去ったが、尻尾が過ぎるまで3日かかった。
などなど。
そして中東の伝承では、大地を支える天使の下に巨大な雄牛クジャタがいて、その下に巨大魚バハムート(ベヒモス)、さらに下に大ヘビがいるとされました。
魚やクジラのような姿で描かれるバハムートは、中東式ということですね。
(3)悪魔化
こうしてどんどん巨大化していったベヒモスですが、中世後期頃になると一変して悪魔であると解釈されます。
19世紀、コラン・ド・プランシーの著書「地獄の辞典」では象頭人身で描かれ、地獄の陸軍と海軍の統括だとして紹介されました。
そして七つの大罪のうち「暴食」あるいは「強欲」を司る悪魔という説も出てきます。
最終的には「暴食」はベルゼブブ、「強欲」はマモンという悪魔が司るということで決まり、ベヒモスは七つの大罪とは無関係とされましたが、相方のリヴァイアサンは「嫉妬」を司る悪魔とされました。
ヨーロッパの一般大衆は、比較的近年まで(現代でも一部の保守的な人は)ベヒモスを悪魔の一種だと考えていたのです。
(4)竜化
このように一時期オカルトチックになったベヒモスですが、現代にはいるとイメージがまた一新されます。
ゲーム「ダンジョンズ&ドラゴンズ」や「ファイナルファンタジー」で、バハムートの名前でドラゴンとして登場し人気を得ました。
これがきっかけとなり、数々の作品でドラゴンとして描かれることが増えていったのです。
特に「ファイナルファンタジー」シリーズでは、バハムートとは別にベヒーモスという牛に似たモンスターも登場し、これとともに本来のベヒモスの知名度も若干向上しました。
近年ではインターネットの普及も進み、ベヒモスが悪魔であるというイメージは払拭されつつあるかと思います。
もしもゲーム人気がなかったら、ベヒモスは今も悪魔と呼ばれていたのかもしれませんね。
2.由来
ベヒモスは旧約聖書に登場する、陸を象徴するモンスター。
旧約聖書の神様ヤハウェは、天地創造の5日目に生物たちを作り出しました。
その時にベヒモス(陸の象徴)とリヴァイアサン(海の象徴)は、二体一緒に造り出されたと言います。
(ジズ(空の象徴)と合わせて三体一緒という説もある)
ベヒモスは英語、バハムートはアラビア語での呼び方です。
名前の由来はヘブライ語のベヘモスという単語で、動物という意味。
ドラゴンではなく、アニマルです。
3.能力考察
神様がベヒモスとリヴァイアサンを創造したとき、神様はその出来を見て「ベヒモスは最高傑作」「リヴァイアサンは最強生物」だと思わず自賛したという逸話があります。
ゲームなどでは、リヴァイアサンとセットで登場し最強のドラゴンとされることが多いベヒモス(バハムート)ですが、元ネタではリヴァイアサンの方が遥かに強いのです。
そもそも旧約聖書に登場するベヒモスは、どう見てもカバ。
名前の意味からして「動物」ですし、草食で沼に隠れていたりしますから戦闘向きではありません。
ここでちょっとヨブ記のベヒモスを見てみましょう。
(注:筆者の独自解釈です。詳細は小ネタ(1)参照)
- 草食
- 腰周りと腹筋がスゴイ
- 尻尾が香柏(ヒノキの一種)に似ている
- 尻尾の毛は、からみ合っている
- 骨は金属棒のように頑丈
- 神に最初に造られた
- 神がベヒモスにつるぎを授けた
- 山はベヒモスのために食物を生み出し、たくさんの獣がそこに遊んでいる
- 酸棗(ナツメの一種)の木の下に伏せたり、葦の茂みや沼に隠れている
- 川が荒れたり、川の水が口に流れ込んでも、あわてたりしない
- 鉤や罠で捕まえられない
神がベヒモスに授けたつるぎを牙とするか角とするかで、カバやゾウになるかサイや牛になるか、人によって解釈が分かれます。
しかし、沼に隠れたり川の水が口に入ったりするシーンを想像すると、カバが一番しっくりきますよね。
カバは怒らせると非常に恐ろしい動物ですが、火を吹くとまで説明されているリヴァイアサンと比べてしまうと、とても弱そうです。
それがどうして変化したのか。
もしかすると、
「神様に一番に造られたベヒモスには、リヴァイアサン同様に強くあってほしい」
という、人々の願いによって、ベヒモスは強大化し続けているのかもしれません。
4.小ネタ
(1)旧約聖書 ヨブ記40章
ベヒモスに関する記述は、旧約聖書のヨブ記40章15~24節にあります。
以下はwikisourceのヨブ記(口語訳)からの引用ですが、ベヒモスは「河馬」と翻訳されています。
(ベヒモスの説明文は、リヴァイアサンの三分の一以下。さみしい・・・。)
- 河馬を見よ、これはあなたと同様にわたしが造ったもので、牛のように草を食う。
- 見よ、その力は腰にあり、その勢いは腹の筋にある。
- これはその尾を香柏のように動かし、そのももの筋は互にからみ合う。
- その骨は青銅の管のようで、その肋骨は鉄の棒のようだ。
- これは神のわざの第一のものであって、これを造った者がこれにつるぎを授けた。
- 山もこれがために食物をいだし、もろもろの野の獣もそこに遊ぶ。
- これは酸棗の木の下に伏し、葦の茂み、または沼に隠れている。
- 酸棗の木はその陰でこれをおおい、川の柳はこれをめぐり囲む。
- 見よ、たとい川が荒れても、これは驚かない。ヨルダンがその口に注ぎかかっても、これはあわてない。
- だれが、かぎでこれを捕えることができるか。だれが、わなでその鼻を貫くことができるか。
(出典:wikisource)