ケルベロス

3つの頭を持つことで知られる、冥府の番犬ケルベロス。
犬だけでなく、実は蛇や毒とも関係があります。
また、犬には義理堅いイメージがありますが、このケルベロスは賄賂の慣用句になるほど。
誘惑に弱い、ヘタレわんこなんです。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
  3.能力考察
  4.小ネタ
  (1)トリカブトと魔女の神
  (2)ヘラクレスとの因縁
 

1.姿形

一般的にケルベロスは「3つの頭を持つ犬」として有名ですが、彼の姿はこれだけではありません。
「頭が50ある犬」だったり、犬じゃなくて「竜の尾を持つライオン(タテガミ代わりに蛇がわさわさ生えている)」だったり、文献により様々です。

異説の方がインパクトがあって強そうなのですが、一般に認知されている「ケルベロスらしさ」は無いので、映画やゲームでこの姿を見かけることは滅多にないでしょう。描くのも大変ですしね。

 

2.由来

冥府の番犬ケルベロス。英語だとサーベラスと発音します。

ギリシャ神話最強のモンスターである半蛇の神テュポーンと蛇女エキドナの子であり、兄弟にはヒュドラやキマイラといった有名モンスターがずらりと並ぶ、エリート家系。
(詳細はエキドナ参照)

名前の由来はギリシャ語で、「底なし穴の霊」を意味します。
霊とありますが、ギリシャ神話ではヘラクレスとがっつり取っ組み合いしてますので、実体があると分かります。

もしかすると、古い民話では幽霊だったのかも知れませんね。

 

3.能力考察

「侵入者なんていないワン。ホンとだワン。」

両親とも半蛇であり、ケルベロス自身も毒草トリカブトの生みの親
毒があるだろうことは、容易に想像できます。

また、冥府の神ハデスに従い冥府への侵入者を防ぐと同時に、冥府から出ようとする死者を滅するゴーストバスター。
門番というだけでなく、ゾンビ退治の専門家という顔も持っています。

重要な役目を任されるだけあって、兄弟たちに引けをとらない強さと凶暴さを合わせ持つはずなのですが、神話の中ではあまり活躍しません。

かの有名なヘラクレスの十二の難業では、素手のヘラクレスに負けてしまって、いいとこナシでした。

また、「3つの頭が交代に眠るので、通る者を見逃さない」という地味な特殊能力がありますが、死んだ妻を追いかけ冥府へ行くオルフェウスに対し、竪琴の音色であっさりスヤァと寝てしまい、通行を見逃してしまいます。

他にも食べ物に釣られて見逃しちゃうお話しが2回もあって、誘惑にとっても弱いのです。
英語では、政治家に賄賂を贈る慣用句が「ケルベロスに菓子を贈る」という表現なんだとか。

テゴワイけれど、ちょっと抜けてる腹ペコわんこ。かわいい。

 

4.小ネタ

(1)トリカブトと魔女の神

トリカブトの花は僧侶のフードに似ていることから、洋名をモンクスフード(アコナイト)と呼びます。
(毒矢に使われたことから、ウルフズベイン(狼殺し)という別名もある)

ケルベロスがヘラクレスと勝負して負けた後、地上へ連れて行かれた時に太陽に驚き、吠えて飛び散ったヨダレから毒草トリカブトが生まれたと言われていますが、この毒草と縁があるのはケルベロスだけではありません。

トリカブトは、女神ヘカテー(ヘカーテ)がつかさどる花でもあるのです。


ギリシャ神話のヘカテーは、月と狩猟の女神アルテミスの従姉妹であり、月と魔術の女神です。

ヘカテーは冥府に住まう神で、王ハデスとその妻ペルセポネに次ぐ3番目の権力者。
3つの体を持っていて天界、地上、海も自由に行き来でき、松明を持って地獄の猛犬を連れ、夜の交差点に現れて人々の話を聞いてくれると言われています。
そのことから、かつては像が各所に設置され、犬の散歩するおばちゃん旅の道祖神として親しまれてきました。

3つの頭のケルベロスと3つの体のヘカテー。どちらもトリカブトに関係していて冥府住まい。ちょっと似てますよね。

中世になってキリスト教が広まると、ヘカテーは魔女の神としておとしめられますが、それまではとても身近な存在だったのです。


ちなみにヘカテーは、ヘラクレスの恩人ガランティスを侍女にしています。
ガランティスはヘラクレスが産まれる際、出産を助けたことで呪いをうけ、イタチにされてしまいましたが、ヘカテーに拾われていたのです。

つまり、ケルベロスから見てヘラクレスは、上司の部下の部下が助けた子供・・・。
そういう意味でもヘカテーは、ケルベロスと縁のある神様なのです。

(2)ヘラクレスとの因縁

主人であるハデスに従い、真面目に冥府の入り口を守っている忠犬ケルベロス。

そんな彼にも悩みがあった。
仲の良かった弟のオルトロスが、実母エキドナと結婚して子供が出来たという。

「ゼウスに封印されてるオヤジが、万が一解放されたら何て言えばいいんだ!」

「あの母だからなぁ。本当に弟との子供なんだろうか。
いくらなんでも、犬と蛇から獅子とか蟹は生まれないよな?」

「そういえば、その子は俺の甥なのか?弟なのか?どう接すればいいんだろう…。」

しばらくたったある日、オルトロスから次々と知らせが。

「俺の子の獅子がネメア谷でヘラクレスに殺されてしまった。
仕返ししたいが、あいつゼウスの隠し子なんだよな・・・。」

「今度は妹のヒュドラが襲われた。
助けに入った俺の子供、蟹のカルキノスも一緒に殺されてしまったらしい。
ヒュドラの毒が悪用されなきゃいいが。」

「りんご番のラドンまで……。
守ってたあの金りんご、ゼウスの結婚祝いだったやつだろ?
ゼウスの奴がもっとしっかりしていれば・・・。」

「ヘラクレスの奴、今度は俺が守ってる牛を盗みに来るらしい。
こっちに来たら返り討ちにしてやる!」

その後オルトロスと連絡が途絶え心配していると、目の前に毛皮一枚の変な男が現れる。

「僕ヘラクレス。王様に、君を連れて来いって言われちゃってさぁ。
ハデス叔父さんにケルベロス貸してほしいって頼んだら、傷つけなればOKって言われたんだ。
ヒュドラの毒矢は使わずに、手加減してあげるよ。」

「この服、こないだネメアで倒した獅子皮で作ったんだ。
かっこいいでしょ?」

「オルトロス?棍棒で叩いたら死んじゃった。
僕って強いからいつもやり過ぎちゃうんだよね。てへっ。」


この後負けたケルベロスが、とってもかわいそう。

ギリシャ神話は、たくさんの因縁が絡み合って出来ていますが、人や神々だけでなくモンスターにも様々な縁があります。
モンスターを倒されるだけの敵役ではなく、登場人物として見てみるともっと面白くなりますよ。

ちなみに、ヘラクレスはその後ヒュドラの毒を服に仕込まれ、苦しみから逃れるため自殺します。
最後まで因縁を感じますよね。