キマイラ

代表的な合成獣キマイラ。
3種の生物が組み合わさっており、生物学用語の元にもなっています。
ギリシャ神話に登場しますが、実はトルコのヒッタイト文明と深い関わりがあるのです。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
  (1)名前と出自
  (2)トルコの聖獣
  (3)キマイラの最後(神話のあらすじ)
   【閑話】鉄の帝国ヒッタイト
  3.能力考察
 

1.姿形

キマイラは雄獅子おじしの頭と前足、山羊やぎの胴と後足、へびの頭がついた尻尾をもち、胴から雄山羊の頭が生えています。

口から炎を吐くのが特徴で、住んでいた山を焼いて暴れまわったモンスターです。

 

2.由来

(1)名前と出自

キマイラの名前は、ギリシャ語で雌山羊めやぎという意味。
おすのライオンだけが持つタテガミや、雄のヤギがもつ立派なツノを生やしていますが、実はめすなのです。

ギリシャ神話におけるキマイラの父はテュポーン、母はエキドナ
ケルベロスヒュドラスフィンクスなどとは兄弟姉妹。
(家族の詳細はエキドナ参照。)

また、メデューサの曾孫ひまごでもあります。
キマイラはペガサスに乗った人物に倒されますが、ペガサスもメデューサから生まれたモンスターですから、無関係ではないのです。

キマイラはリュキアの火山に住んでいるとされ、カーリア王アミソダロスに育てられました。

(2)トルコの聖獣

リュキアとは現在のトルコ南沿岸地域のことで、ここにカーリア国もありました。

トルコに住むという点から推測できるとおり、キマイラはギリシャ発祥はっしょうのモンスターではなく、元はトルコ・ヒッタイト文明の聖獣。
くわしい伝承は失われてしまいましたが、獅子が春、山羊が夏、蛇が冬をあらわしていたとされます。


キマイラに合成されているこれらの動物は、単体でも尊敬され、恐れられていた生物たちです。

たとえば獅子は、都市を守護する重要な門にられていますし、
蛇には、都市の守護神と互角ごかくに戦った恐ろしい蛇神イルルヤンカシュの伝説が残っています。

山羊についてはさだかではありませんが、鹿が聖獣として非常に尊重されていたことが分かっています。

つまりキマイラは、ヒッタイトにおけるすごい生物、全部入りモンスター。
善悪を併せ持つ存在なのです。

・・・ちょっと強引ですかね?
ヒッタイトにおける山羊の扱いがどうだったか、もうちょっと情報あれば良かったのですが見つかりませんでした。


ちなみに古代ギリシャや周辺の文明では、山羊と蛇は多産・豊穣ほうじょうの象徴です。

ただし、中世以降は性に奔放ほんぽうな様子を連想させるため、キリスト教から「けしからん生物」だと認定されます。
山羊や蛇は、悪魔の象徴として扱われるようになりました。

この両方が合成されたキマイラは、女性の性的衝動(恋に一途、猪突猛進ちょとつもうしんな感じ?)を象徴するという説もでてきます。

恋した女子は、獅子になって「がおぉとせまり」、山羊のように「xxやって」、最後に「やめときゃよかった」と蛇のようにしつこく後悔する(ねちねち愚痴ぐちる?)からだそうです。


なお、キマイラの由来は諸説あり、聖獣という他にも

  1. 活火山をモンスターにたとえたもの
  2. 冬の寒さをモンスターに例えたもの
  3. 山の頂上・中腹・ふもとにいた動物をくっつけた
  4. 海賊団キマロスの首領がキマイラという人物だった

など、たくさん説があります。

(3)キマイラの最後(神話のあらすじ)

ギリシャ神話でのキマイラは、有翼馬ペガサスに乗ったベレロポーンにより、くちなまりを突き入れられます。
そのまま炎を吐いたキマイラは、溶けた鉛で窒息ちっそくしてしまい退治されました。

ベレロポーンは後にリュキアの王となりますが、天界に行こうとしてペガサスから振り落とされ、その後は放浪あるいは死亡するという最後を迎えます。

【閑話】鉄の帝国ヒッタイト

キマイラの出身地であるヒッタイトは、製鉄技術の発祥の地。
鉄器時代の始まりは、紀元前15世紀頃とされます。

口に入れられた金属が、自分の炎で溶け窒息するという死因は、鍛冶かじの国ヒッタイトならではのものでしょう。

ギリシャ神話に取り入れられ怪物となった後も、倒され方にこだわりというか、郷土愛を感じます。


鉄を得たヒッタイトは、非常に高い軍事力を持っていました。
侵攻してきた古代エジプト、ラムセス2世の軍を撃退したカデシュの戦い(紀元前1274年)などが有名ですよね。

この戦争は、ギリシャ神話が現在の形に整理される(紀元前9~前8世紀頃)よりも前の出来事です。

つい忘れがちですが、人の歴史は神話よりも古いのです。

 

3.能力考察

キマイラの特徴は、なんと言っても炎でしょう。

鉛の融点ゆうてんは低いといいますが、それでも 327℃ もあります。
これを一瞬で溶かしてしまう炎なのですから、じかに浴びれば数秒で黒こげです。

熱が伝わりやすい金属鎧は逆効果ですし、皮装備では焼けてしまい役に立ちません。
キマイラ相手に、防戦に回ることは禁物きんもつです。

ベレロポーンがやったように、炎が届かない空中から急降下で近づき口をふさいでしまうというのは、非常に有効な手ではあります。
しかし、誰でも空を飛べるわけではありません。

スピードが出せない徒歩の場合は、どうしても近づく前に炎を吐かれてしまいます。
炎対策が万全でないなら、やはり弓矢など遠距離から攻撃するのが最善でしょう。


キマイラは異説の多いモンスターであり、現代創作でもそれらを活用した姿や特殊能力が考案されています。

元ネタとは異なる獣を組み合わせた姿だったり、冬の寒さを例えたという所から、炎ではなく、吹雪ふぶきあやつったり。

よくわからないということは、創作意欲がかきたてられる、工夫しがいのあるモンスターだということなんですよね。