ケルベロス、ヒュドラ、スフィンクス、キマイラ…
エキドナは、数々のモンスターを生み出した怪物の母ですが、実はヘラクレスとの間に人間の子供がいたりもします。
今回はエキドナはもちろん、ちょっと多すぎる子供たちについてもまとめました。
(目次) 1.姿形 2.由来 【閑話】迷子のヘラクレス 3.能力考察 4.小ネタ (1)エキドナの子供たち
1.姿形
エキドナは、下半身が蛇の女性です。
背に翼が生えた姿で描かれることもありますが、そちらは他と混同された結果かもしれません。
イタリアにあるボマルツォの怪物庭園では、復讐の女神フリアエ(エリーニュス、フューリーズとも呼ばれる)の石像が、下半身が蛇で翼を持つ女性の姿となっています。
しかも、エキドナとフリアエの像が同じ広場に設置されているので、とっても間違いやすいんですよね。
2.由来
エキドナの名前はギリシャ語で、「毒ヘビ」という意味。
英語のエキドナは、ハリモグラや悪女を指す場合もあるので注意しましょう。
ハリモグラは卵生の哺乳類だから、蛇女エキドナ(蛇は卵生)にあやかった名前なんだとか。
エキドナの両親は諸説ありますが、父はクリュサオル、母はカリロエ。
(ガイアとタルタロス、あるいはポルキュースとケトという説もあり)
クリュサオルはメデューサの息子にあたる巨人で、カリロエは水神の娘です。
エキドナのヘビ部分は、お婆ちゃんのメデューサゆずりかも知れませんね。
メデューサが呪われる前のように、エキドナは美女とされています。
なお、ヘラクレスの難行で殺されたゲリュオンとエキドナは兄妹(もしくは姉弟)です。
このお話ではゲリュオンの牛を、エキドナの夫(兼 息子)オルトロスが守っていますが、親戚だったからなんですね。
ギリシャにあるバルカン半島の最南端、ペロポネソス半島の中央部にアルカディアという地方があります。
辺境の山岳地帯にある洞窟に、エキドナは住んでいました。
通りがかった旅人に上半身だけを見せて、寄ってきたところを食べてしまう人食いモンスターだったのです。
その後エキドナは怪物テュポーンの妻となり、数々のモンスターを生み出しました。
そしてテュポーンが宇宙を焼き尽くしてゼウスに封印された後も、息子のオルトロスと再婚して怪物を生み出し続けたのです。
しかし、生み出されたモンスターたちのほとんどはヘラクレスによって退治されてしまいました。
そして兄ゲリュオンと夫オルトロスまでヘラクレスによって命を落とすことになったのです。
エキドナは不死であったと伝えられていますが、百眼の巨人アルゴスに殺されたというお話も残っており、その最期は定かではありません。
なおエキドナは、元々スキタイ(イラン系の遊牧民)の女神だったという説もあります。
ヘラクレスがゲリュオンの牛を追っていたときのこと。
無人の辺境スキュティアの地で、エキドナとヘラクレスが出会って3人の子供をつくり、末子がスキタイ人の王になったという伝承も残っているのです。
【閑話】迷子のヘラクレス
エキドナとヘラクレスが出会ったとされるスキュティアは、黒海の北、ロシアに近いウクライナ辺りですが、他にもゲリュオン探しの途中に立ち寄ったとされる場所があります。
それはスペインの南、アフリカとの間にあるジブラルタル海峡です。
伝説によると、昔々スペインとアフリカは山脈で陸続きでした。
しかし、山登りが面倒だとヘラクレスが殴りつけ、山を崩してしまったのです。
このとき、山はもちろん地面まで削れてへこみ、海水が流れ込んで大西洋と地中海がつながってしまいました。
この海峡を挟んで別れた2つの山は、合わせて「ヘラクレスの柱」と呼ばれています。
ヨーロッパの北からアフリカまでも駆け回ったヘラクレスは、大洋の島国(スペインが有力)でようやくゲリュオンを見つけたのです。
3.能力考察
エキドナは、自分で戦うのが苦手だからでしょうか。
美しい姿を武器として、旅人を騙すことを基本戦術としています。
不死とされてはいますが、怖いもの知らずでは無いのです。
また、恐ろしい人食いモンスターではありますが、見境なしに人を襲うわけでも無いようです。
スキュティアでヘラクレスと出会った時には人質ならぬ馬質をとって、取引で子供をもうけました。
自分の子供たちを殺した上、今まさに、兄ゲリュオンから盗みを働こうと駆け回っているヘラクレスに対してです。
このときの心境がどのようなものかは判りませんが、どうあっても強い子が欲しいという、何か執念のようなものを感じます。
モンスターの母エキドナには、何か心に秘めた目的・信念があったのかも知れませんね。
4.小ネタ
(1)エキドナの子供たち
【テュポーンとの子供】
-
- ケルベロス
- 三頭犬。
冥府の王、ハデスに仕える冥府の番犬。
ヘラクレスに生け捕りにされる。 -
- オルトロス
- 二頭犬。
母のエキドナと結婚する。
ヘラクレスから、主人ゲリュオンの牛を守ろうとして退治される。 -
- ヒュドラ
- 多頭の巨大毒蛇。後の「うみへび座」
ヘラクレスに退治される。 -
- ラドン
- 百眼(あるいは百頭)で火を吹く蛇。
ヘスペリデスの園にある、黄金のリンゴを守護していた、後の「りゅう座」。
ヘラクレスに退治される。 -
- 金羊毛の番竜
- コルキス王の宝、金羊毛を守護する眠らないドラゴン。
魔女メディアに魔法で眠らされ、イアソンに金羊毛を盗られた。 -
- エトン
- 鷲。タゲスという異父弟の鷲もいる。
ゼウスを騙して人類に火を与えたプロメテウスへの罰として、ゼウスがエトンとタゲスにプロメテウスの肝臓を啄ばむよう命じた。異説もあるが、ヘラクレスに退治された後の「わし座」。
エトンはエキドナとテュポーンの子で、
タゲスはエキドナとオルトロスの子とされる。 -
- パイア
- イノシシ。
アテネに向けて旅立ったばかりの勇者テセウス(16歳)により、3番目に退治される。
「クロミュオーンの猪」と呼ばれる女盗賊だったという説もある。 -
- キマイラ
- 雄獅子の頭と前足、山羊の胴体と後足、蛇頭の尻尾を持ち、胴から雄山羊の頭が生えている。
オスと思わせての、実はメス。
ペガサスに乗った、ベレロポーンに退治される。 -
- スフィンクス
- 顔と手、腹は女性で、胸と腰下が獅子、鳥の翼が生えている。
エジプトではなく、ギリシャ在住。
テーベの山城にて、オイディプスになぞなぞを解かれて退治された。
オルトロスとの子供だという説もある。
【オルトロスとの子供】
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- ネメアの獅子
- ヘラクレスの試練で、一番最初に退治された。
普通のライオンではなく、甲羅付きの堅いヤツ。
後の「獅子座」。 -
- カルキノス
- ごく普通の蟹だが、後の「蟹座」。
ヘラクレスがヒュドラを退治する最中、姉のヒュドラを助けようとしたがヘラクレスに踏み潰された。
ヘラクレスには気づかれもしなかったと、追い討ちコメントが付いている。 -
- タゲス
- 鷲。エトンを参照。
【ヘラクレスとの子供】
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- アガテュルソス
- 長男。
ヘラクレスが言い残した儀式(弓と、金の盃が付いた帯を使った、ヘラクレスのモノマネ)に失敗し、追放される。 -
- ゲロノス
- 次男。儀式に失敗し、追放される。
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- スキュテス
- 三男。儀式に成功し、スキタイ人の王となる。
【番外編】
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- デルピュネ
- 下半身が蛇の女性。
テュポーンとエキドナの子とも言われるが、
テュポーンが自分の肩から生えている蛇頭の一つを切り落として、そこから生まれたという異伝もある。テュポーンが初戦で勝利した時に切り取った、ゼウスの手足の腱を守っていた。
デルポイの神託所を守る怪物ピュトンと同一という説もある。
(ピュトンには、テュポーンの育ての親という伝承もある。) -
- ケートス
- クジラ胴に犬頭。
ゼウスあるいはポセイドンに作られたとされるが、エキドナとテュポーンの子という伝承もある。ケートスは生贄のアンドロメダを襲ったが、ペルセウスによってメデューサ退治の帰りに石化された。
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- スキュラ
- 上半身が女性で下半身が魚。腹から6頭の犬が生えている。
通常は呪われた女性として登場しますが、テュポーンとエキドナの子と言われることもあります。 -
- クリュンヌ
- テュポーンとエキドナの子と言われるが、詳細不詳。