三面六臂の巨人ゲリュオン。
ギリシャ神話でヘラクレスと戦った怪物です。
まるで阿修羅のような姿ですが、実はスペインの王子であるとも言われます。
(目次) 1.姿形 2.由来 【閑話】ゲリュオンと冥界 3.能力考察
1.姿形
ゲリュオンの姿にはいくつかバージョンがありますが、最も古いものは3つの頭をもつ人型です。
巨人と形容されますが、ヘラクレスと戦うシーンでは同じ背丈で描かれますので、やや大柄という程度でしょう。
後に古代ギリシャの詩人ステシコロスにより、頭と手足が3対あって翼を持ち、鎧兜に槍と盾を持つと歌われました。
また古代ローマの作家アポロドロスにより、上半身も3対あると記されています。
それから約1000年後、詩人ダンテの「神曲」にも登場しますが、ここでデザインが一新されます。
ゲリュオンは、蛇の体、獣の足、二股のサソリの尾、翼を持つ人面の怪物として登場したのです。
人・獣・爬虫類の三種一体となったこの怪物は、嘘つき者の象徴とされました。
2.由来
ゲリュオンはギリシャ神話に登場し、クリュサオルとカリロエの子で、エキドナとは兄弟姉妹であるとされています。
父のクリュサオルはメデューサと海神ポセイドンの子、母のカリロエは水神の娘ですから、ゲリュオンは神の血を引いているのです。
なお、父にあたるクリュサオルは、スペインの王がモチーフであるという説があり、本来のゲリュオンはスペイン王子であるといわれます。
ゲリュオンは、大洋に浮かぶ島エリュテイアに住んでいました。
(実際のモデルは離島ではなく、スペイン南部という説が有力です)
その地でゲリュオンは、部下の牛飼いエウリュティオンと、エキドナの子(兼、エキドナの夫)である2つの頭を持つ犬オルトロスに牛の番をさせていました。
ところが、ミケーネ王の命令で牛を盗みにヘラクレスがやってきて、この牛飼いとオルトロスが殺されてしまったのです。
殺人現場を見ていた別の牛飼いメイノテスが、このことをゲリュオンに知らせました。
ゲリュオンは急いで鎧兜を着込み、ヘラクレスに戦いを挑みます。
しかし健闘むなしく、返り討ちにあってしまうのです。
【閑話】ゲリュオンと冥界
ゲリュオンに殺人があったことを知らせた牛飼いのメイノテスは、冥界の王ハデスの配下とされています。
このメイノテスが近くにいたことからゲリュオンは、冥界近くに住む、大地(地下世界)に関する精霊が由来であると考えられているのです。
またゲリュオンは死後、冥界の住人になったという伝承もあります。
ゲリュオンの甥には、3つの頭をもつ冥界の番犬ケルベロスがいますが、冥界との関係性を強調しているように感じますよね。
ゲリュオンは、冥界と深い関係があるモンスターなのです。
3.能力考察
ゲリュオンのエピソードは、古代ギリシャでとても人気があったと言われます。
当時流行していた抒情詩「ゲリュオネイア」では、野蛮なヘラクレスとは対照的に、ゲリュオンは優雅で高貴な人物として登場するのです。
そして戦いのシーンでは、3身のうち1身を弓で射殺されながらも、残りの2身で接近戦を挑む、後に引かない勇猛さを見せてくれます。
ゲリュオンは、3つの命をもつ勇敢な騎士だったのです。
最後は力及ばず負けてしまいますが、ギリシャ側のヒーローであるはずのヘラクレスよりも、好意的に描かれているのが印象的ですね。
当時の人々はゲリュオンを、嫌悪すべきモンスターではなく、尊敬すべき貴人として見ていたのかも知れません。