グアンナは、ギルガメシュ叙事詩に登場する天の牛。
牡牛座の原点と考えられています。
ギルガメシュへの復讐に燃える女神イシュタルが、天空神アヌにせがんで作らせました。
(目次) 1.姿形と由来 2.能力考察 3.小ネタ (1)天の牡牛座
1.姿形と由来
グアンナ(gu ann na)はシュメール語で天の牛という意味。
グガランナ(gu gal ann na)とも呼ばれ、この場合は”偉大な”天の牛という意味です。
ちなみに英語だとグガランナ呼びが一般的な模様。
天は空(sky)ではなく、天国(heaven)と英訳されています。
ギルガメシュ叙事詩において、
愛の女神イシュタルは、怪物フンババを倒して帰ってきた英雄ギルガメシュ王に求婚しますが「お前は今までひどいことばかりしてきた」と断られます。
怒ったイシュタルはアヌ神に、天の牛グアンナを作り都を破壊するよう頼みます。
「ダメだったら、死人を大量に生き返らせるぞ」という脅しを受け、グアンナがもたらすであろう7年間の不作(飢饉)に備えることを条件に、アヌは牛を創造しました。
グアンナは暴れまわりますが、エンキドゥが頸と角の間に剣を突きたてて倒します。
グアンナの心臓は太陽神シャマシュに、角の中にあった油はルガルバンダ(ギルガメシュ個人の守護神で、先々代の王)に捧げられました。
(叙事詩の全体はエンキドゥ参照)
グアンナの姿は、青玉石で出来た角をもつ巨大な雄牛とされます。
角は一つ30ムナ(約7kg)、指2本分の厚みがある中空構造です。
角の中には、両方あわせて6グル(250リットル)もの油が入っていました。
100リットルの大型スーツケースが外寸約 80 × 50 × 30cm程度ですから、2.5倍して角の形に整形すると、両角合わせて3~5メートルくらいありそうですね。
グアンナは、巨大といっても山サイズではなく、家サイズだと推測できます。
現代では青玉というとサファイアですが、古代の産地はインドあたり。
メソポタミア文明が栄えた地域(現イラク)は、ターコイズ(トルコ石)の大産地でしたから、青緑のターコイズを指していた可能性もあります。
とはいえ、ギルガメシュがいたとされるシュメール文明時代には、既にインダス文明と交易を始めていたという説もありますし、アフガニスタンあたりでは青い石ラピスラズリも産出しますので、なんとも言えません。
2.能力考察
グアンナが暴れるシーンは欠損が多く、詳しいことはわかりませんが7年間の不作を発生させるというアヌ神の言葉から、単に力が強いだけではないと思われます。
アヌは「太陽の頂き」「天」という意味を持ち、天空や星の神とされます。
もしかするとアヌが創造したグアンナは、日照りなどをもたらすモンスターかもしれませんね。
3.小ネタ
(1)天の牡牛座
現在残っている最古の星座表「プトレマイオスの48星座」は、紀元2世紀頃の古代ローマ時代に作成されました。
そのため、星座にまつわるお話はギリシャ神話が主体になっています。
しかし、星座自体の原点はもっと古く、一部はメソポタミア文明からの輸入であると考えられています。
その一つが、この牡牛座(金牛宮)。
実は、シュメール文明(紀元前2900~前2350年)の記録には既に、グアンナが牡牛座として登場しているのです。
現在の牡牛座に含まれる一等星アルデバランやプレアデス星団を構成に含んでいるため、同じ名前の別の星座・・・という可能性も、なさそうです。
ギリシャ神話では、一目ぼれしたお姫様エウロペを誘拐するときに、ゼウスが変身した白牛が牡牛座の由来とされますが、元々は都を破壊するために遣わされた天の牛、グアンナがモデルなのです。