森の守護者フンババ。
ギルガメシュ叙事詩に登場する世界最古のモンスターです。
人間の脅威から自然を守るため、神によって生み出されました。
自然破壊は神を怒らせる悪い事だと、古代人も分かっていたのでしょうね。
それでも人類繁栄のため、木の伐採は避けては通れない道でした。
(目次) 1.姿形と由来 【閑話】レバノン杉 2.能力考察
1.姿形と由来
フンババ(フワワ)はギルガメシュ叙事詩に登場するモンスター。杉の森を人間たちから守るため、エンリル神によって地上に遣わされた存在です。
人はフンババの声を聞くだけで恐怖で竦み、近づくことさえ出来ませんでした。
(叙事詩の内容は、エンキドゥ参照)
初期の頃は姿の描写があまりない怪物でしたが、時代が進むと巨人、悪、凶兆といった要素が追加されていきました。
「声は洪水、口は火、息は死」「口は竜、顔は獅子、胸は洪水」といった例えで表現されます。
なお、エンリル神はメソポタミア系神話における地の男神で、「勇ましきエンリル」とも呼ばれます。
叙事詩の一節(ノアの箱舟の元ネタ部分)では、大洪水を起こし世界を滅亡寸前までにした張本人としてもエンリルが登場。
また、後世ではベールと呼ばれ、天空神アヌに取って代わって主神として崇められた時期もありました。
フンババは、ただの怪物ではありません。
世界を滅ぼすことが出来るほどの大神が、自然の守護者、人間の敵とするべく生み出した怪物なのです。
レバノン杉(Cedar of Lebanon)はフンババが守っていた森の木とされていて、古代メソポタミアでは広く利用されていた樹木です。
ソロモン王の宮殿にも使われたほか、エジプトに輸出したり、アレキサンダー大王の艦隊に使われたりもしました。
スギと名前がついていますが、実はマツ科。
成長すると40メートルにもなる巨木で、最高齢は6500年とも言われます。
古代では中東一帯に広く自生していましたが、森林破壊の結果、現代ではごく一部の地域にしか残っていません。
中東のパリと呼ばれるレバノンの北部、カディーシャ渓谷に残る森が世界遺産となっており、神の杉の森と呼称され、国旗にもなっています。
日本でも、新宿御苑で見られますよ!
(立派さは、さすがに現地の古木に及びませんが。)
2.能力考察
「ギルガメシュ叙事詩」に登場するフンババは、特徴が少ないモンスター。
恐怖をもたらす叫び声をもちますが、登場後にいきなり神風で倒されて命乞いするため、情けない印象をもたれがち。
ですが、実は叙事詩の他にも登場する物語があって、そちらではもう少し強そうなフンババが見られます。
それが、「ギルガメシュと生者の国」あるいは「ギルガメシュとフワワ」と呼ばれるお話です。
こちらでは超能力を駆使する怪物として、フンババが登場します。
最終的に倒されるのは同じですが、「驚愕の輝き」で人を眠らせることが出来ますし、「畏怖の輝き」(7種のバリア)で身を守っていて、力だけでは絶対に勝てません。
相手にする人間の数も、叙事詩とは違います。
叙事詩では、フンババと戦うのはギルガメシュとエンキドゥの2人だけですが、こちらの物語では、他に7人の神の使徒(半獣人)と、50人の義勇民が付き従っていたとされていて、フンババの強大さが引き立っているのです。
・・・
無敵のバリアがあったのに、どうして負けたのかって?
ギルガメシュから、「バリアを脱いでハダカで勝負したら、自分の姉妹を嫁にやる」と言われたのを信じちゃったからです。
やっぱり情けないじゃないか!
最強だけど女性に弱い。
物語の定番ですが、その原点になっているのでしょうね。
なんとなく、ギリシャ神話の主神ゼウスを思い出しました。