ミノタウロス

今回の解説は、牛頭の巨漢ミノタウロス。
ゲームでは斧を振り回すモンスターとして、おなじみですよね。
彼の本名はアステリオス。実は王子様なんです。

(目次)
  1.姿形
  【閑話】ヨーロッパの孫
  2.由来
  3.能力考察
  【閑話】家宝の投槍
  4.小ネタ
  (1)ミノタウロスの誕生(神話のあらすじ)
  (2)ダイダロスとミノス王(神話のあらすじ)
 

1.姿形

ミノタウロスは、牛の頭をした人間の姿をしています。

この呼び名、実は名前でも種族名でもなく、ミノスの牛という意味の渾名あだななのです。

 

2.由来

「大人もみんな、最初は子供だったんだよ」星の王子様

ミノタウロスはギリシャ神話に登場するクレタ王ミノスの息子ですが、実の父親はミノスではありません。

母親はミノスの妻であるパシパエで、本当の父親はミノスが海と大地の神ポセイドンをだまして得た白い牡牛おうしなのです。
小ネタ(1)参照


ミノタウロスの本名はアステリオスと言い、「星」「雷光」という意味の、かっこいいキラキラネーム。

ミノスの養父である前王アステリオスからもらって付けた名前なので、産まれた当初はその異形いぎょうにも関わらず、後継者としてけっこう期待されていたのかも。

ミノス王は、血のつながっていない父王アステリオスに育てられた境遇きょうぐうです。
血のつながっていない息子ミノタウロスに、自分の養父と同じ名前を付けたのは、亡くなった父へ恩返しする気持ちもあったのかもしれませんね。

【閑話】ヨーロッパの孫

ミノタウロスの養父であるミノスは、主神ゼウスとゼウスがさらったお姫様エウロパの子供です。
ゼウスは一目ぼれしたエウロパをさらう際、白い牡牛に変身し、油断したエウロパを背にのせて世界中を駆け回りました。
このとき駆け回った地域を「エウロパ(Europa)」つまり「ヨーロッパ」と呼ぶようになったのです。

エウロパは、ゼウスが去った後にクレタ王アステリオスと再婚し、二人でミノスを育てました。
血のつながりこそ無いものの、ミノスの子であるミノタウロスは、ゼウスとエウロパの孫にあたるのです。

 

3.能力考察

ミノタウロスは力自慢の大男で、武器は両刃斧ラブリュス。

産まれたときには王の後継者として期待されていたミノタウロスですが、成長するに従って凶暴化して恐ろしい人食いモンスターとなり、ついには迷宮に幽閉ゆうへいされてしまいます。
小ネタ(2)参照

大変恐ろしいモンスターですが、神話ではまだ若かった英雄テセウスに、魔法の短剣で倒されてしまいました。

このことから、神のような超常的な強さは無く、人間でもなんとか勝てる強さと考えられます。


ちなみに、ミノタウロスが幽閉されていたクレタ島ミノア文明において、ラブリュスは生贄いけにえの儀式で使われる祭器さいきでした。
武器というよりも、宗教的な道具だったのです。

実際、クレタの遺跡ではラブリュスのシンボルが数多く発掘されました。

このラブリュスは、迷宮を意味するラビリンスという言葉と関連があるとも言われています。

【閑話】家宝の投槍

ミノタウロスの祖父ゼウスは、妻エウロパと別れる際に3つの贈り物をしています。
青銅の自動人形タロス。獲物を必ず捕らえる猟犬。そして、無くなる事のない投槍です。

アニメやゲームで登場する時ミノタウロスは斧や棍棒、大剣を持っていることが多いですが、家宝の投槍を受け継ぎ、力いっぱいブン投げて来る。
そんなミノタウロスも見てみたい気がしますよね。

 

4.小ネタ

(1)ミノタウロスの誕生(神話のあらすじ)

「すり替えておいたのさ!」

ミノスは長男ですが、父はゼウスであり、育ての父王アステリオスの血をひいていませんでした。
そのため、王の直系である弟たちと王位を争うことになったのです。

そこで、ミノスは海神ポセイドン(ゼウスの兄)に祈ります。
「王位を継ぐ証として、(実父ゼウスが変身したような)白い牡牛を送ってほしい。王になれたら牡牛は生贄として捧げて、ポセイドンのもとにお返しします。」

ミノスの祈りを聞き届けたポセイドンは牡牛を送り、ミノスは無事、王様になります。
しかし、ミノスは送られた白い牡牛を気に入ってしまい、返したくないあまりに生贄を別の牛とすり替えてしまったのです。

騙されたと怒ったポセイドンは、ミノスの妻パシパエに、白い牡牛を愛するよう呪いをかけました。悩んだパシパエですが、発明家ダイダロスの協力を得て牡牛と結ばれます。
その結果産まれたのが、ミノタウロスことアステリオス王子なのです。

牛をすり替えた王様は、罰として妻の愛を、牛とすり替えられてしまったのです。

(2)ダイダロスとミノス王(神話のあらすじ)

「いと もった?」アリアドネ

クレタ王のミノスは、凶暴になったとはいえ、息子であるミノタウロスを殺すことができず、幽閉することを選びます。
ミノスは以前、罪を犯してアテネ国を追放された発明家、ダイダロスを助けて保護し、クレタ国民に迎えていました。

ミノスはダイダロスに命じて、クレタ島の都市クノッソスに、ラビュリントスと呼ばれる迷宮を作らせ、そこにミノタウロスを幽閉しました。

そして、なんとかミノタウロスの凶暴性をしずめようと、生贄を捧げることを思いつきます。
そこで、クレタとの戦争に負けたアテネの国民から生贄をとることにしました。ミノスはアテネ国に対して、毎年7人の少年と7人の少女を送るよう命じたのです。


そしてあるとき、アテネの英雄少年テセウスが、ミノタウロスを退治するために生贄になると名乗り出ます。クレタ王ミノスを騙してやろうというのです。

クレタ島に着いたテセウスを見た、クレタ王女アリアドネ(ミノタウロスの妹だけど牛頭じゃないよ!)は、テセウスを気に入り、父王に内緒ないしょでテセウスを助けたいとダイダロスに相談します。
そして、魔法の短剣と、迷宮の中から帰ってくるための魔法の糸をテセウスにプレゼントするのです。

テセウスは無事、ミノタウロスを倒しアテネに帰ります。
(余談ですが、アリアドネがディオニュソス神に誘拐されたり、テセウスの義父が亡くなるといった事件もこの時に起きます。) 


しかし、怒ったのは王のミノスです。娘やテセウスにも怒りを覚えましたが、娘に入れ知恵したダイダロスは恩をあだで返した裏切り者。このままにしておくわけにはいきません。
ミノスは息子が殺された仕返しに、ダイダロスとその息子イカロスを塔に幽閉することにしました。

こうして幽閉されたダイダロスですが、あきらめずにろうで翼を作り、塔から脱出します。このとき、息子のイカロスは「太陽に近づいてはいけない」という父の言いつけを守らず、墜落してしまいます。

逃げたダイダロスを追いかけて、ミノスはシチリア島(イタリア南部にある島)までたどり着きます。
しかしミノスは、その地でダイダロスをかばおうとした、コーカロス王の娘たちに熱湯をかけられ死んでしまいます。

死後ミノスは、かつて王位を争った弟のラダマンテュス、アイアコスたちと共に、仲良く?冥界の審判者になりました。

西洋版の閻魔えんま様ですね。