テュポーン

ギリシャ神話最強のモンスター、テュポーン。
妻エキドナとの間に、ケルベロスを始め多く怪物を生み出したモンスターの父でもあります。
主神ゼウスにも勝利した彼ですが、最後には封印されてしまいました。
今回は、そんなテュポーンについて解説します。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
  3.能力考察
  4.小ネタ
  (1)意外と若い?
 

1.姿形

テュポーン(テュフォン)は炎を放つ目を持ち、ももから上は人型で、下はとぐろを巻いた蛇の姿。
その身の丈は星々に達し、腕を伸ばせば世界の両端に届くほど。肩からは百の蛇を生やしています。
また、一説には翼を持つ多頭竜とも言われ、宇宙をけることも出来ます。

人型ですが腿から下が蛇なので、身長は腕を広げた両端と同じか、やや足りないくらいのバランスと考えてよさそうですね。

ちなみに、地球の直径は約12,742km。外気圏がいきけん(大気と宇宙の境目)までは約10,000kmです。
腕が届く距離=世界の両端(地球の直径)とするなら、星々に達するというテュポーンの身長は、外気圏までの距離と同じ10,000kmくらいと考えてよさそうです。
そう考えると、富士山(約3.7km)の2700倍くらいの背丈があるということになりますね。

テュポーンは、惑星サイズの超巨大モンスターなのです。


・・・と、ここまで誇張して説明してしまいましたが、実はギリシャ神話の文字化は紀元前8世紀頃。
アレクサンドリアのエラトステネス(研究機関ムセイオンの館長)が地球のサイズを測定したのは、500年もあとの紀元前2~3世紀頃なので、登場当初のテュポーンは、もっと小さいサイズを想定していたかもしれません。

古代人がイメージしていた世界(テュポーン)のサイズは諸説あるでしょうが、最小は目で見渡せる距離。
最大ではヨーロッパと同じサイズと言ったところでしょうか?
現代ギリシャが東西約600km。ヨーロッパ(スペインからトルコあたりまで)が東西約4,000kmの距離です。

ちなみに人が目で見渡せる距離がどれくらいかというと、
海岸に立って水平線を見渡して見える距離が約4~5km。背後も入れると直径10kmの円範囲です。

ウルトラマンの身長が40m、漫画「進撃の巨人」に登場する超大型巨人が60m超という設定であることを考えると、テュポーンは最小サイズの10km(=10,000m)であっても、文字通りケタ違いのサイズなのが分かるでしょう。

 

2.由来

テュポーンはギリシャ神話に登場するモンスターで、名前の意味は暴風雨。

台風をあらわす英語、タイフーンの語源のひとつです。
かつて嵐が起こるのは、テュポーンの仕業しわざと考えられていました。

テュポーンの誕生神話には、大きく分けて2パターンあります。
一つ目は、原初の混沌から生まれた大地母神であるガイアが産んだ、最後の子というもの。

あるときゼウスひきいるオリュンポス神族が、敵対する巨神族(ティターン、ギガース)を次々と倒してしまいます。しかし、どちらの神族もガイアの子供たちでした。

これを知ったガイアが、ゼウスへの怒りから生み出したのがテュポーンです。
テュポーンの父は、奈落の神タルタロスであるとも、存在しない(ガイア単独で生み出した)とも言われます。

ちなみにゼウスの父は、ガイアの子クロノス(大地の神)。
クロノスとテュポーンは兄弟関係ですから、ゼウスにとってテュポーンは年下の叔父さんという関係なのです。


そして二つ目のパターンは、ゼウスの妻ヘラが浮気者のゼウスをらしめるため、用意した怪物がテュポーンであるというお話です。

こちらでは、ヘラがクロノスにもらった卵を育てた、あるいは自分で産んで蛇のピュトンに育てさせたとされています。


どちらであるにせよテュポーンは、親の喧嘩けんかの道具にされてしまった、かわいそうな子供なのです。

(´・ω・`)

 

3.能力考察

「フンガーーー!!」

テュポーンは嵐を体現するほか、目から無数の炎弾を放ち宇宙を自在に飛び回る不死の巨神。
サイズがサイズですから何をやっても強いのは明白ですが、実は神様にも勝っており、ギリシャ神話最強のモンスターとも言われます。
そのわりに知名度が低い

神話でのテュポーンは地上を焼き払った後、宇宙を暴れまわって神々を恐怖のどん底に叩き落としました。
対するゼウスも雷霆らいていケラウノスと金剛石ダイヤモンドかまアダマスを使って奮戦しますが、テュポーンが勝利してゼウスの手足のけんを切り取って幽閉してしまうのです。


一度は勝利したテュポーンですが、仲間の助けで力と武器を取り戻したゼウスに、今度は逆に追い詰められてしまいます。

そこで、テュポーンは運命の女神から「勝利の果実」を得ようとしますが、だまされて、望みが叶うことが無くなるゴールドエクスペリエンス・レクイエム「無常の果実」を食べてしまいました。
その結果、テュポーンはゼウスに敗北してしまいます。

しかしゼウスも不死身のテュポーンを倒しきることはできず、結局はエトナ火山(イタリアにあるシチリア島)の下に封印したのです。

サイズから考えると、テュポーンの体全部ではなく心臓などコアを抜き取って封じたのでしょう。
制御しきれない巨悪を煮えたぎる溶岩に放り込むという表現は、昔から大変人気があります。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」「ターミネーター2」などがそうですよね?
その原点は、このテュポーンにあるのです。

テュポーンの敗因は、「果実」という安易なものに頼ろうとしたことや、だまされてしまった所でしょうか。
不死な上にゼウスとは互角、一度は勝利したほどなのですから、素直に逃げて再挑戦していればまた違った結果だったかも知れませんね。


ちなみにシチリア島は、女神アテナが不死の巨人エンケラドスを封印するために、相手の上に投げ落とした島だという伝承もあります。

封印場所が同じことから、テュポーンとエンケラドスを同一視する説もありますが、ギリシャ神話は各地の土着神話を無理やり取り入れた(ギリシャの神々に置き換えた)お話も多いので、異説や矛盾はよくあります。

 

4.小ネタ

(1)意外と若い?

テュポーンは、妻エキドナとの間にケルベロス、オルトロス、ヒュドラ、キマイラなどたくさんの子をもうけます(詳細は、エキドナ参照)が、後に子供たちのほとんどはヘラクレスと戦い倒されてしまいます。

しかし、このヘラクレス。
実はテュポーンが生まれる前の、神々とギガースたちとの戦いにも参戦しているのです。
つまり、テュポーンはヘラクレスよりも年下ということなんですね。

半神とはいえ、ヘラクレスが何百年も生きたという話は聞きませんので、十二の試練に旅立ったのは30~40歳頃でしょうか。試練を科したのは、不死になっていない(ヘラの乳を飲んでいない)はずのヘラクレスの双子の兄ですしね。

そして、ヘラクレス十二の試練の最初に登場するのは、テュポーンの孫(息子のオルトロスと、エキドナの子)ネメアの獅子です。

整理すると、こんな流れですね。

  1. ヘラクレスが生まれる
  2. ヘラクレスがギガースに勝利(ヘラクレス20歳頃?)
  3. ガイアが怒って、テュポーンを産む
  4. テュポーンとエキドナが結婚。子供ができる
  5. テュポーンがゼウスと戦い敗北・封印される
  6. オルトロスとエキドナが結婚。テュポーンの孫が生まれる
  7. ヘラクレスが十二の試練に旅立つ(ヘラクレス30~40歳頃?)

こう眺めてみると、テュポーンに子供が出来たのは10代前半かなぁ。
1ケタ代という可能性も・・・。いろいろ考えられますね。