ユニコーン

今回は、一角獣いっかくじゅうとも呼ばれるユニコーンについて解説します。
白馬と思われがちですが、昔はオレンジだったり、ぞうのような足をしているという説もありました。
角には水や酒を浄化する力がありますが、憤怒ふんぬを象徴する善悪あわせもつ獣です。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
  3.能力考察
  4.小ネタ
  (1)ユニコーンの出典元
 

1.姿形

一般的なユニコーンの姿は、ひたいから巻貝のような螺旋らせん状の長い一本角を生やしている白馬です。説によっては、馬ではなく山羊やぎや羊、鹿、牛とする場合も。

角はおおむねまっすぐですが、曲がっていたり、額ではなく鼻の上から生えていることもあります。

また、獅子ししの尾、山羊のあごひげ、山羊のような二又ふたまたひづめ、紺色の目を持っています。


ユニコーンが今の姿になったのは中世ヨーロッパの時代ですが、それ以前から色々な書物に登場しており、その存在が信じられてきました。
そのため、たくさんのバリエーションがあるのです。

ここでは、その一部を紹介します。
(以下、登場が古い順。詳細は小ネタ(1)参照)

  1. クテシアス「インド誌」
  2. インドにいる白いロバ。
    頭は暗い赤色で、目は紺色。
    角は短く45cm程度で、根元が白、真ん中は黒、先端は赤の3色。
    ユニコーンの角杯かくはいで水や酒を飲むと、病気や毒の予防になる。

  3. メガステネス「インド誌」
  4. 現地ではカルタゾーノスと呼ぶ生物。
    オレンジ色で羊のような体毛をしており、象の足と豚の尾をもつ獣。
    角は黒色で、螺旋模様。

  5. カエサル「ガリア戦記」
  6. ドイツで見た鹿に似た牛。
    角は長くて先端が手のように大きく枝分かれしている。

  7. ソリヌス「奇異なる事物の集成」
  8. 馬の体、象の足、豚の尾、鹿の頭をもつ獣。
    輝く角は長く、120cm程度ある。

  9. 作者不明「フィシオロゴス」
  10. 雄山羊くらいのサイズで1本の角をもつ獣。
    処女を近づけるとひざに乗り、飼いらして王宮に連れて行くことが出来る。

かつて、クジラの一種イッカクのきばがユニコーンの角といつわって販売されたことがありました。

ソリヌスが書いた角の長さが120cmというのは、雌のイッカクの牙と同じ長さなのでその影響かも。

通常、雌のイッカクは牙が生えていませんが、約15%の確立で120cmほどの牙が生えます。
(ちなみに、雄のイッカクの牙は300cmもあります)

 

2.由来

名前の由来はギリシャ語のモノケロース。
「1本づのの」という意味です。
ラテン語でユニコーニスに変化し、英語でユニコーンとなりました。


中世の百科辞典フィシオロゴスに「処女がユニコーンを王宮に連れて行く」というお話が掲載されていますが、このお話の元ネタはインドに伝わる1本角の人間。
リシュヤシュリンガ(鹿の角を持つ者)という、鹿角ろっかく仙人です。

ひでりで苦しんでいた国を救うため、遊女(あるいは王女)が山に住んでいたリシュヤシュリンガを誘惑して王宮まで連れて行き、雨を降らせました。

インドの獣ユニコーンと、インド神話の登場人物を重ねて見たのでしょうね。

しかし、これも元をたどると中東に起源があります。
インドのリシュヤシュリンガは、「ギルガメシュ叙事詩」に登場する野人エンキドゥがモデルになっているのです。

エンキドゥもまた、山に住んでいたところを遊女に王宮まで連れて行かれ、ギルガメシュと友になりました。


フィシオロゴスは作者不明ですが、僧侶の一団が共同で書いたとされています。
遊女が処女に変化したのは、教育に悪いと考えたからでしょうか。
 

3.能力考察

ユニコーンはとても人気のあるモンスターで、中世以降も数々の創作がありました。

  1. 象を突き倒せる
  2. 角を岩でいで戦いにそなえる
  3. 生けりにしても、自殺してしまう
  4. 断崖だんがいから飛び降りて逃げるが、着地の際に角を地面に突きたてて衝撃をやわらげる
  5. 周囲の動物を見境みさかい無く突き刺したため、ノアの箱舟から投げ落とされ絶滅した。
    (あるいはほこり高いため、ノアの箱舟に乗るのを自分でこばんだ)

などなど。
だいたいが物騒ぶっそうなお話ですよね。

日本では神聖な獣というイメージが強いユニコーンですが、ヨーロッパでは長い間、獰猛どうもうで手が付けられない暴れ馬として名をせてきたのです。

多勢で囲めば倒すことが出来るとされていますが、象をも倒す攻撃力と高い機動力を持つ相手ですから、簡単にはいきません。

ユニコーンはおとなしい聖獣では無く、油断ならない相手なのです。

 

4.小ネタ

(1)ユニコーンの出典元

※ 内容は要約です。

  1. 医師クテシアス「インド誌」
  2. (紀元前4世紀頃)

    最古のユニコーン。
    ギリシャ人のクテシアスが、ペルシャ人から聞いた話をまとめた書物。


    大きさは馬と同じかそれ以上で、インドに生息するロバ。
    色は白く、頭は暗赤色、目は紺色、額に1キュビット(約45cm)の1本角。
    角の色は、根元から2パーム(約14cm)が純白で、真ん中は黒、尖った先端は燃えるような深紅。

    角で作った杯で酒や水を飲むと、痙攣けいれんや、てんかんの予防になるほか、毒の免疫が付く。
    また、アストラガロス(くるぶしの隣にある距骨きょこつ。サイコロに使う。)が美しい。

    はじめはゆっくり走るが、だんだん速度が増して、トップスピードは馬より早い。

    捕まえるときは子連れの時を狙う。大勢の騎馬で取り囲むと、逃げずに子を守り戦い出す。猛反撃を受けるが、矢や投げ槍で倒せる。
    ただし、生け捕りには出来ない。

    肉は苦く食べられないため、角とアストラガロスのためだけに狩られる。

  3. 特使メガステネス「インド誌」
  4. (紀元前3世紀頃)

    ギリシャ人のメガステネスが、インド人から聞いた話をまとめた書物。


    現地の言葉で「カルタゾーノス」と呼ばれる1本角の獣がいる。
    大きさは馬と同じくらいで、たてがみを持ち、羊毛のような柔らかい毛で、黄味がかった赤色をしている。

    とても足が速い。
    足にはふしが無く象のようで、尾は豚のように渦巻き状。
    角は眉の間に生えていて、なめらかではない螺旋状の筋が入っており、色は黒く、鋭くとがっており強靭きょうじん
    大きく耳障みみざわりな声を出す。

    他の動物には近づくことを許すが、同種族には好戦的で角を突き合い、雌に対しても敵意を示す。喧嘩けんかでしばしば相手を殺してしまう。

    単独行動を好むが、繁殖期はんしょくきには同種族に対してもおだやかになる。
    ただし、雌が身ごもると再び獰猛どうもうになる。

    幼獣は、王の祝典などで戦わせて見世物にされる。
    成獣が捕獲ほかくされたことは、過去一度もない。

  5. カエサル「ガリア戦記」
  6. (紀元前1世紀頃)

    カエサルはローマの政治家で軍人。
    さいは投げられた」「ブルータスお前もか!」といった名言をのこした。
    ガリア戦記は、カエサル自身の遠征記録。


    ゲルマニア(ドイツ)の森に、鹿の姿をした牛がいた。
    額の中央、両耳の間くらいの位置から1本の角が生えていて、その角は知られているよりも長く真っ直ぐ突き出ている。
    また、角の先端は手や枝のように大きく広がっている。
    これらの特徴は雌雄しゆうで同じ。

  7. ソリヌス「奇異なる事物の集成」
  8. (紀元3世紀頃 / 6世紀に「博物誌」に題名変更)

    ソリヌスはローマ時代の作家。


    最も恐ろしい生物に、モノケロースというモンスターがいる。
    恐ろしいうなり声、馬の体、象の足、豚の尾、鹿の頭をもつ。
    輝く1本角をもち、長さは4ベース(約120cm)、非常に鋭くて何でも一撃で貫く。
    殺すことはできるが、生け捕りにはできない。

  9. 作者不明「フィシオロゴス」
  10. (2~4世紀頃 / 5世紀以降、何度も改訂。)

    題名は博物学者という意味で、中世初期の百科辞典。


    小さめの獣で雄山羊くらいのサイズ。
    非常に果敢で力も強いため、狩人も近づけない。
    頭の中央に1本の角がある。

    美しく装ったけがれのない処女を連れてくると、膝に飛び乗ってきて、飼い馴らし王宮に連れて行くことができる。

    この生物は、救世主(キリスト)の姿に引き写すことができる。
    (聖書にある出来事と、重ねて見ることができる。)


    初期はキリストと結び付けられていたユニコーンですが、後代になると改訂が進みます。
    ユニコーンは人間に悪意をもち、突き刺して食べてしまう悪魔であると補足がつくのです。

    また、七つの大罪「憤怒」の象徴がユニコーンとされるほか、「不節制せっせい」を象徴するとも言われます。

    フィシオロゴスの版によっては、ユニコーンが角で十字を切って水場の毒を浄化するお話も登場し、善悪をあわせ持つ獣とされています。