ウェアウルフ

今回は狼男ウェアウルフ。バーサーカーの元ネタです。
かつて狼は、人間を食べてしまう恐怖の存在、リアルモンスターでした。
大森林が広がる昔のヨーロッパでは、今よりももっと身近にこの脅威を感じていたのです。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
  【閑話】人狼の伝承、狼と月の関係まとめ
  3.能力考察
  (1)賢狼タイプ
  (2)人間タイプ
  (3)獣人タイプ
  4.小ネタ
  (1)人狼の弱点は?
 

1.姿形

ウェアウルフは半人半狼のモンスター。

“ウェア”には古い英語で男という意味があり狼男おおかみおとこと訳されることが多いですが、女性版でもウェアウルフと呼ぶので、人狼じんろうと訳したほうが誤解が少ないかも。

ユニバーサルスタジオのホラー映画「狼男(The Wolf Man)」の影響で、「フランケンシュタイン」「ドラキュラ」とともに三大怪物と呼ばれるようになりました。


ヨーロッパ各地で大人気のウェアウルフですが、その姿には3つのパターンがあります。

  1. 賢狼タイプ ‐ 人語を話す狼。神様の化身が多い。
  2. 人間タイプ ‐ 獣のように行動する人間。いわゆる狼憑おおかみつき。
  3. 獣人タイプ ‐ 頭部が狼の人間。

今でこそ獣人タイプが有名ですが、昔はあまり登場せず人間タイプがメジャーでした。

そのおとぎ話の狼男、本当に獣人タイプですか?

 

2.由来

「満月の夜に獣人に変身する狼男」がすっかり有名になりましたが、これは映画の中だけのお話。
実際の伝承では、満月と変身はあまり関連ありません。

ワーウルフ、ライカンスロープ、リカントロープ、ルーガルー、ヴァラヴォルフなどなど、多くの伝承・呼び名がありますが、全部同種のモンスター。

ウェアウルフとよく似た獣人間は、北欧神話にもウルフヘジンや、ベルセルク(バーサーカー)として登場しますが、どちらも獣になりきって戦う狂戦士でウェアウルフの派生と考えられています。

【閑話】人狼の伝承、狼と月の関係まとめ
    <賢狼タイプの伝承>
  1. 月と狩猟の女神アルテミスは、狼に変身できる
    (ギリシャ神話)
  2. 主神オーディンは狼に変身できる。また、オーディンは最終戦争ラグナロクで、巨狼フェンリルに飲み込まれる
    (北欧神話)
  3. 太陽と月が動くのは、巨狼フェンリルの子スコルが太陽を、ハティが月を飲み込もうと追いかけているから
    (北欧神話)
  4. 言葉を話す狼が、相手をだまして食べる
    (赤ずきんちゃん、三匹の子豚、狼と七匹の子山羊やぎほか)
  5.  

    <人間タイプの伝承>
  6. ネウロイ人は年1回、狼に変身する
    (ヘロドトス著書「歴史」)
  7. 建国者ロムルスとレムスは狼に育てられた。また、人が獣化する(狼になりきる)症候群があった
    (ローマ帝国)
  8. 見せしめとして、月夜に狼の真似まねをさせる刑罰があった
    (中世ヨーロッパ)
  9. ウルフヘジン(狼)やベルセルク(熊)という、獣になりきる狂戦士がいる
    (北欧神話)
  10. ネブカドネザル2世は7年間、自分を狼と思い込んだ
    (旧約聖書)

    補足:
    ネブカドネザル2世は世界の七不思議のひとつ、バビロンの空中庭園(バベルの塔の原型)を建てた人。
  11. 一族の人間は蒼き狼ボルテ・チノと、白き雌鹿コアイ・マラルの子孫
    (モンゴル、メルゲン氏族の伝承)

    補足1:
    あおき狼の子と呼ばれるチンギス・ハンの父はメルゲン氏族ではなく、黄色い犬が始祖の氏族という説もある。狼を祖とするのは、2人いるチンギスの兄たちの方。
     
    補足2:
    ボルテ・チノの”ボルテ”は、灰色のまだら模様を指す。”蒼き狼”は中国語訳。中国で蒼は蒼白そうはく色、つまりグレーを指す。
  12. 一族の人間は雌狼アセナと少年の子孫
    (トルコのテュルク神話、ウィグル民謡など)

    補足:
    日本神道の主神、天照大神あまてらすおおみかみはテュルク系が起源の女神で、大神=狼ではないかという説もある。
    テュルク系のキルギス人は、日本人と顔や文化がそっくり。

    つまり、日本人は狼だったんだよ!!

  13.  

    <獣人タイプの伝承>
  14. 主神ゼウスがリュカオン王を罰として狼人間に変えた
    (ギリシャ神話)
  15. ヴコドラクという、人食いの狼男(吸血鬼の一種でもある)がいて日食や月食を起こす
    (セルビア)

ちなみに、ウェアウルフと語感が似ているベオウルフという単語がありますが、こちらは叙事詩「ベオウルフ」の主人公で、人名なので無関係です。
 

3.能力考察

(1)賢狼タイプ

賢狼タイプのウェアウルフは、神話に登場する場合は神の化身あるいは神殺しの怪物であることが多く、その場合は人間がかなうような相手ではありません。

一方、童話に登場する人語を話す狼は、元をたどると人間(悪人)を意味することが多いです。
こちらの場合は(紳士をよそおって女の子を食べるなど 意味深 恐ろしい行動はしますが)狩人に倒されるなどしていますので、戦闘能力は人間並みと考えて良いでしょう。

(2)人間タイプ

人間タイプのウェアウルフには、病気や呪いで狂った人間と、戦いのために野獣になりきった戦士の2通りあります。

前者は奇抜な行動をするだけで、力量は普通の人間。
後者は我を忘れて手当たり次第に襲い掛かる、恐ろしい狂戦士です。

狂戦士として有名なベルセルク(熊の上衣をまとう者あるいは、鎧を着ない者の意味)は狼男というより熊男ですが、ウルフヘジン(狼皮を纏う者)と同一の存在とも言われています。

恐れを知らずに暴れ回り、動くものは何にでも襲い掛かるため、敵はもちろん味方にも恐れられていました。

接近戦では無類の強さを誇る彼らですが、冷静さを失い防御も忘れること、戦闘後に呆然として動けなくなることなど弱点もあります。

(3)獣人タイプ

映画で一躍有名になった獣人タイプ。
各地の伝承を参考にしてはいるのでしょうが、ほぼオリジナルと呼んでも良いかもしれません。今日こんにちでは、このオリジナル設定の方がメジャーになりました。

映画の主人公は、狼(正体は狼憑きの占い師)に噛まれたことをきっかけに、満月の夜になると獣人に変身して殺人を行うようになります。

変身中は常人よりも強い力を得るほか、銀の弾丸か銀のステッキしか通用しなくなる、ほぼ無敵の存在。
しかし、理性がなくなって獣同然になってしまうのです。

映画の最後は、主人公の父が息子から預けられた銀のステッキで戦い、狼男を倒して真実を知るところで終わりました。

ちなみに、映画では狼男に銀の弾丸は使われませんでした。
銀の弾丸がモンスター退治に使われたのは、映画「フランケンシュタインの館」です。

 

4.小ネタ

(1)人狼の弱点は?

狼男の弱点は銀の弾丸である・・・。
よく言われる弱点ですが、本来は特に銀が弱点ということはありません。

映画の中で銀を弱点にすることにしたのは、ダニエル・ベルナールの著書「狼と人間」にヒントを得たからという説があります。
この説で紹介されている記事は、以下の2つ。

  1. 「フランス・ジュヴォーダン地方の事件」
  2. 100人を超える犠牲者を出した正体不明の獣ベート・・・と一緒に現れた、巨大な狼を倒したのが、聖母マリアのメダルを溶かして鋳造した銃弾だった。
    (倒した相手は人狼ではなく、メダルも銀だったか不明。)
  3. 「16世紀の人狼を元に戻す方法」
  4. ここでは「一人の友が額に刃物で、三突きの傷を負わせ、三滴の血を失わせ、聖別された銀の銃弾で傷をつけられたなら・・・」とある。
    (元に戻す方法であり、殺すための方法では無い。)

他にも、ヨーロッパでは銀を魔除けにする文化がありますが、いずれにせよ明確に銀が弱点であるとしている伝承は無さそうです。

他に言われる弱点としては、トリカブト(モンクスフード)の毒が挙げられます。
トリカブトはウルフズベイン(狼殺し)とも呼ばれ、古代から毒矢や毒餌に使われてきました。

銀は悪霊全般に効く魔除け。銃やトリカブトは生物全般に効く武器です。
もちろん人狼にも効果はあるでしょうが、弱点と呼べるほど効くと言う伝承は無いのです。