トゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)

アイルランドに伝わるケルトの神々、トゥアハ・デ・ダナーン。
ダーナ神族といえば、聞いた事がある人も多いのではないでしょうか。
人間との戦争に負けた彼らは、妖精に姿を変えて暮らしていると言われます。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
   【閑話】ケルト神話
  3.能力考察
  4.小ネタ
  (1)主な神々
 

1.姿形

トゥアハ・デ・ダナーンは、女神ダヌから生まれたと言われる人型の神々です。

かつてアイルランドを治めていましたが、後からやってきた人間たちミレーの一族と戦争になり、負けてしまいました。

その後は妖精に姿を変え、地下世界あるいは、西海の果てにあるという異郷に国を作ったといわれます。

 

2.由来

トゥアハ・デ・ダナーン(以下ダーナ)は、アイルランド版のケルト神話に登場します。
(ケルト神話には他にもガリア版、ウェールズ版がありますが、内容が全く違います)

名前の意味はダーナ神族。
魔法の雲に乗って西の海から到来し、気づいた時には砦の中に居たという、神出鬼没しんしゅつきぼつな神々でした。


また、ダーナ神族は「侵略の書(レボル・ガバーラ)」の詩にも登場します。

これによるとエリン(アイルランド)に最初に来た人間は、聖書に登場するノアの息子、ビトの一族でしたが、まもなく洪水で流されてしまい、ただ一人フィンタンという人物だけが生き残りました。

その後、エリンの地には5つの種族が順にやってきます。
(フィンタン自身と、悪役のフォモール族を含めると7種族)

  1. パーホロン
  2. 1人を残して疫病で滅亡。
  3. ネメズ
  4. 30人を残して原因不明の滅亡。
    (残った30人は島を去りブリテンの王になった、あるいは子孫がフィルボルグやダーナ神族となって帰ってきたなど、多数の説がある。)
  5. フィルボルグ
  6. ダーナと戦争して負け、支配される。
  7. ダーナ
  8. ミレーと戦争して負ける。
    妖精となって地下と海の彼方かなたに移住。
  9. ミレー
  10. アイルランド人の祖先。

このうち、ダーナまでの4種族はいずれもフォモール族という怪物たちと戦って土地を勝ち取っています。
(フォモールは「海の下」という意味。詳細はバロール参照。)

フォモール族は強大で、一度はダーナにも勝利しますが、最後は逆転されて滅びました。

【閑話】ケルト神話

ケルト神話はアイルランド島だけでなく、ヨーロッパ大陸のガリア人などにも信仰されていましたが、彼らは特定の国を持たない民族でした。

その上、物語を口伝くちづたえする伝統でんとうがあり、ほとんど文字に残さなかったのです。

そのため現代に残っている物語は、ほとんどが中世以降に書かれたものとなっています。
キリスト教が流入した後に書かれたものばかりなので、純粋な神話は残されていないと言えるかも知れません。

 

3.能力考察

ダーナ神族は神ではありますが、決して無敵の存在ではありませんでした。
ダーナ王のヌアザは、先住民のフィルボルグ相手に片腕を失ったり、フォモール族に一度敗退したりもしています。

ダーナたちの強みは、義手の作成をはじめとした先進知識や技術、魔法武器にこそあり、武勇や肉体の強靭さにおいては人間とさほど変わり無かったようです。

新しくやって来た人間のミレー族に敗退し、異世界に追いやられた原因はここにあるのでしょう。
ダーナ神族は、良くも悪くも人間と対等の存在だったのです。

 

4.小ネタ

(1)主な神々

  1. ダグダ
  2. ダグザとも呼ばれる、大地と豊穣ほうじょうの神。
    破壊と再生の棍棒、天候と感情・眠りを自在とする金の竪琴、食料が無限に出る釜を持つ。

  3. ヌアザ
  4. ヌァダとも呼ぶ、銀の義手と不敗の剣をもつ戦神。
    別名「銀の腕のヌアザ(ヌアザ・アガートラーム)」

    フィルボルグ最強の戦士スレンとの戦いで片腕を失い、おきてで王座を退しりぞいた。
    その後は義手を使っていたが、医師のミアハにより元の腕を取り戻し、王座に戻る。

  5. ルー
  6. 光の神。
    全知全能を意味するイルダーナ、ドル・ドナランランルーとも呼ぶ。

    魔術、医療、発明に優れるなど、豊富な知識を持っていた。
    また剣と槍が得意で、攻撃の速さから「長腕のルー」と呼ばれる。
    フォモール族に敗北したヌアザの後を継ぎ、王となって勝利に導く。

    父はディアン・ケヒトの息子キアン、母はバロールの娘エスリン。
    争いを避けるため、フィルボルグの王エオホズの養子になっていた。

    ルーはゲイボルグの槍で有名な、英雄クー・フーリンの父でもある。

  7. リール
  8. 海神。

  9. マナナーン・マクリール
  10. リールの息子で海神。西海の彼方にある常若とこわかの国ティル・ナ・ノーグの王。
    魔法の船、馬、剣アンサラーを持ち、ルーに授けた。

    ティル・ナ・ノーグは竜宮城的な場所で、行って戻ると数百年経過していて、故郷の地を踏んだ瞬間に灰になったりする。

  11. ディアン・ケヒト
  12. 医療の神で、光神ルーの父方の祖父にあたる。
    ヌアザの義手を作成した。

    後に医者のミアハが、ヌアザの元の腕を繋ぎなおしたため、嫉妬してミアハを殺したという伝承もある。
    (ミアハはディアン・ケヒトの息子とする場合もある)

  13. ダヌ
  14. ダグダの娘で生命の女神。神々の母という以外は詳細不明。
    ブリギッドと同一視されることがある。

  15. ブリギッド
  16. ダグダの娘でブリード、ブリギッテとも呼ぶ。火、細工、家畜、実り、詩の神で、2月1日に乳搾りの祭りが行われる。
    ブレグ(偽り)、メング(狡猾)、メイベル(醜さ)という3つの面も持つ。

    夫のブレスは、フォモール族とダーナ神族とのハーフ。
    ブレスは腕を失って退位したヌアザの後を継いでダーナの王となったが、圧政を敷いた(あるいは、ヌアザの腕が完治した)ため追放される。
    その後ブレスは、王座奪還のためフォモール族長バロールと協力して戦争を仕掛け、一度は優勢となるがヌアザの後継者ルーに敗れる。

  17. ゴヴニュ
  18. 鍛冶の神。建築や呪術も行う。
    必殺の呪力を持つ武器を作るほか、異世界で行われる「ゴヴニュの宴」で酒を飲むと不老不死になるという伝説も持つ。

  19. ミディール
  20. ダグダの息子で、地下の神。魔法の牛と釜を持つ。

  21. オィングス
  22. ダグダの息子で、愛と若さと美の神。

  23. オグマ
  24. ダグダの息子で、弁舌や霊感(インスピレーション)、言語の神であり、戦神でもある。
    舌と耳を金鎖で繋いだパンクファッション。
    文字の発明者で、ディアンケヒトの娘エーディンの夫でもある。

  25. モリガン
  26. モリグー、モーリアンとも呼ぶ戦神で、二本の槍を扱う。
    妹のヴァハ、パズヴとあわせて、三一体とされることがあり、ダグダの愛人とも、ヌアザの妻とも言われる。
    アーサー王伝説に登場する王の異父姉、魔女モルガン・ル・フェイのモデルとなった。(ル・フェイは妖精という意味)

  27. ヴァハ
  28. マッハとも呼ぶモリガンの妹で、魔法で戦う。
    別名「赤毛のヴァハ」。戦死者の首を食べるとも言われる。

  29. パズヴ
  30. パズヴ・カタ(戦いのカラス)とも言うモリガンの妹。
    泣き女の怪物バンシーのルーツという説がある。