バロール(バラル)はアイルランドに伝わるケルト神話に登場します。
光神ルーの敵役で、フォモール族の長。
見た相手を殺してしまう魔眼を持っているのが特徴です。
(目次) 1.姿形 2.由来 3.能力考察 【閑話】イチイと魔法
1.姿形
バロールは巨人の男で、左目(あるいは額の第三の目)には相手を殺す光を放つ魔力があります。
周囲を気遣って、普段は片目を閉じている所がチャームポイント。
この魔眼は、子供の頃に父のドルイド僧たちが行っていた、毒魔法の儀式をのぞき見た副作用で得たものです。
バロール自身も魔法に精通していて、呪文で嵐を起こしたり、海を火の海に変える場面があります。
ケルト神話は中世頃まで、文字ではなく口で伝えられてきました。
そのため同じ物語でも、バリエーションが豊富です。
バロールも、基本的には上記のとおり怪物として描かれますが、城主や盗賊といった人間の姿で登場することもあるのです。
戦いになると部下が4人がかりでハンドルを回して目からビームを出すまぶたを上げるという、ロボっぽいバージョンもあるそうですよ。
2.由来
名前の意味は「死のようなもの」。
「魔眼のバロール」という異名を持っていますが、他にも「強撃の」「強大な打ち手」「刺すような目の」「悪しき目の」などなど、たくさんの二つ名があります。
バロールはフォモール族の長とされますが、他にもインデッハというフォモール族長が登場しますので、フォモールという呼び名は部族名ではなく、種族名とする方が近いのかもしれません。
(ちなみにフォモールは「海の下」という意味があり、インデッハは夜と冥府の神の息子とされています)
バロールが登場するお話は、大きく分けて3パターン。
1つ目のお話は、いわゆる神話形式。
ここでは、ダーナ神族に敵対するフォモール族の族長、神に比肩する巨人としてバロールが登場します。
バロールは、孫に殺されると予言されて娘のエスリンを幽閉しますが、ダーナ神族のキアンに助け出され失敗。
キアンとエスリンとの間に、光神ルーが産まれます。
ルーは争いを避けるため、海神の元に預けられました。
その後、ダーナ神族の王ヌアザが先住民フィルボルグとの戦いで片腕を失い、王座から退くことになりました。
そこでフォモール族とダーナ神族とのハーフである、ブレスが王座を継ぎます。
しかしブレスは重税を課し、悪政を行いました。
そのため腕を治療したヌアザが王座に戻り、ブレスは王座を追われます。
王座を取り戻したい彼は、フォモール族長のバロールを頼り、戦争を仕掛けました。
バロールはダーナ神族を征服し、支配下に置きます。
そんな中、ルーが成長して戻ってきます。
ヌアザの後継者となったルーは、ダーナ神族の復権のため、フォモール族に戦争を仕掛けます。
(ルーの父キアンは開戦の直前に、一族と仲が悪かった、トゥレン族の3兄弟に殺されます)
最後にバロールは、ルーによって槍(あるいは投石)で倒されました。
2つ目のパターンでは、人間の城主としてバロールが登場します。
孫に殺されると予言され、孫のルーが養子になるところまでは神話と似ているのですが、その後が異なります。
お祭りで遊んでいた少年のルーが弓矢(あるいはダーツ)を射たところ、船に乗って移動していた城主バロールに運悪くヒット。
バロールはそのまま命を落としました。
3つ目の物語は、人間の盗賊バロールです。
バロールは、盗みの下見でやってきた鍛冶場で、親を亡くして鍛冶師に引き取られて育ったルーと話をします。
そこでバロールは、昔ルーの父を殺したことを自慢してしまいました。
ルーは熱した鉄棒でバロールの目を刺し、復讐を果たします。
3.能力考察
見た相手を殺してしまうという能力は回避が難しく、対策しづらいものです。
同種の能力を持つモンスターに、メデューサやバジリスクがいますが、どれも強敵として登場しますよね。
特にバロールの場合、神が相手でも力を発揮するほどですから抵抗はまず不可能。
その上「強撃の」と呼ばれるほどパワフルな巨人で、嵐や炎も操る大魔法使い。
魔眼抜きでも万能で、ほとんど隙が無いように見えます。
しかしそれでも、バロールはルーとの戦いで倒されてしまいました。
死因は投げ槍あるいは魔法の石(タスラム)とされています。
さすがのバロールも、気づかない位置からの狙撃には、成すすべがなかったのです。
ちなみに、ルーが持つ槍は「アッサルの槍」といい、必中の投げ槍です。
この槍は「森一番のイチイの木」「ペルシア大王ピサールの毒槍」(ある種のイチイには、毒があります)「ルイン」といった多くの別名があり、ルーの父を殺した3兄弟に、償いのために科した試練で取ってこさせたもの。
戦いと血を求める五叉の金槍で、町を溶かすほどの熱を発するため氷漬けにしてありました。
イチイの木を意味する呪文(イバル)で飛ばしたり、再イチイ(アスィバル)で手元に戻すことができます。
【閑話】イチイと魔法
イチイの木は厳しい冬の荒野でも常緑を保つため、生と死・復活に関係する神秘的な魔法の木だと考えられていました。
そのためケルトでは、死の女神に捧げたり、イチイの木を通じて死者と会話する神話もあります。
また、ケルトに限らず他の文化においても、イチイは魔除けや魔法道具(占い棒など)の材料に使われることが多い特別な木だったのです。
ちなみにイチイの木は丈夫でしなやか。弓の材料に適した木材でした。
魔法的な意味がなくても、飛び道具には最適なのです。
日本のアイヌ民族も、イチイの弓を使っていたそうですよ。
アッサルの槍は、日本では「ブリューナク」という呼び方が定着しています。
でも、この呼び方が一般的なのはたぶん日本だけ。
なおイチイ製の飛び道具ということで、
ゲーム「ファイアーエムブレム」シリーズで登場する弓、イチイバルとも関係ありそうですが、ちょっと似てるだけで別物です。
(イチイバルは北欧神話の狩猟神ウルが持つ、イチイの弓が元ネタ)