バジリスク

石化能力で有名な架空モンスター、バジリスク。
もともとは実在すると考えられていた小さな蛇で、石化能力はありませんでした。
今回は、蛇やニワトリ、トカゲやドラゴンなど様々な姿で描かれる理由なども解説します。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
   【閑話】キリストトカゲ
  3.能力考察
 

1.姿形

バジリスクはかんむり状のトサカを持つ蛇で、コブラのように身を半分持ち上げて進む生物。バジリスクが音を立てると周囲の蛇が逃げていくとも言われます。
アフリカのリビアや中東の砂漠に住むとされ、その場所はバジリスクの力で砂漠になったという言い伝えももっています。

さて、バジリスクは蛇だと説明しましたが、実は他にも様々な姿を持っています。
中世の頃、一度流行したことがあるモンスターなので、古くからアレンジが盛んだったのです。
ここで、バジリスクの歴史を振り返ってみましょう。


古くは紀元1世紀、ローマの大プリニウスが著書「博物誌」にその特徴をまとめました。
蛇というのは、この博物誌の説です。

いわ

  1. 24cm以下の小型の蛇
  2. 毒は非常に強力で、匂いで他のヘビを殺す
  3. 息に含まれる毒は石を砕く(周囲を粉々にして、砂漠化させる)
  4. 見ただけで死をもたらす力を持っていると思われている
  5. うちはイタチが天敵

なんだかすごい強そうですよね?
でも、この頃は本当にいると考えられていました。


時代が変わりキリスト教が普及すると、とある悪魔の象徴(シンボル)がバジリスクであるとされました。
この悪魔は旧約聖書の「エレミヤ書」「詩篇」に登場し、救世主によって倒されるという重要モンスターです。

「強い=かっこいい」という心理が働くのか、旧約聖書に登場したためなのか、中世になるとバジリスクの強敵化や紋章化が進みます。


14世紀になると、「カンタベリー物語」(宿に集まった旅人たちが物語を教え合う、という形の物語集)が出版され流行したことにより、そこに登場する「バシリコック」という創作モンスターが一般にも良く知られるようになりました。

バシリコックはバジリスクが元ネタの創作モンスターです。

しかしバシリコックの名前の末尾「コック」がニワトリを連想させたため、バシリコックはしばしば雄鶏と関連していると考えられました。
(英語でcockは雄鶏おんどりの意味。)

また、コカトリスという全く別のモンスターがいますが、名前の「コカ」のつづりがcockaだったため、コカトリスもニワトリっぽいモンスターなんじゃないか?などという話がでてきてしまい、結果としてバシリコック、バジリスク、コカトリスの3種が混同され始めます。
(コカドリーユなどマイナーどころを含めると、混同はもっと多いかも)

そして、流行に遅れまいとした創作家、一般人たちがわれも我もと「ぼくのかんがえたさいきょうのバシリコック」(とバジリスクとコカトリス)を登場させたため、バリエーションの増加に拍車がかかります。

特殊能力は盛り沢山だくさん
色んな挿絵・紋章が考案されるのです。

  1. 雄鶏の産んだ卵をヒキガエル(または蛇)が孵化させると産まれる
  2. バジリスクとコカトリスは雌雄関係
  3. 姿は「鶏のトサカを持つ蛇」「8本足のトカゲ」「蛇の尾をもつ雄鶏」「雄鶏の頭と足に、ドラゴンの胴と翼、尾は蛇」ほか説多数
  4. 大きな怪物
  5. 口から火を吹く
  6. 視線で飛ぶ鳥を焼き落とす
  7. 視線で相手を殺す、あるいは麻痺、石化させる
  8. 鏡をみせると、自滅する
  9. 飲んだ水場が長期間、毒で汚染される
  10. 槍でつんつん触れるだけでも、毒がつたって死んでしまう

などなど・・・。
もはや、どの話が正しいかも分からなくなってしまうほどです。

バジリスクはこの時期に得た人気から、現代に至るまで実に500年以上もの長い間、様々な創作に取り入れられ、新たな姿が生み出され続けてきたのです。


バジリスクの知名度は現代でも衰えず、ゲームや漫画、小説、映画など、幅広く登場します。
現代創作でよく見るニワトリの姿をしたバジリスクやコカトリスは、本来バシリコックと呼ぶべきなのかもしれませんね。

 

2.由来

名前の由来は、ギリシャ語のバシレウス。
中世東ローマ帝国では、皇帝の称号をバシレウスといいました。

王という意味を持ちますが、元は地方豪族を指す単語なので「ぬし」や「あるじ」というニュアンスが近いのかもしれません。
転じて、バジリスクは蛇の王(あるいは爬虫類の王)を意味するとされます。
冠状のトサカがあるという特徴を良くあらわしていますよね。

日本ではバジリスクという発音で定着していますが、英語ではバリスクが正しいようです。
(私にはバスリスクと聞こえますが・・・。)

【閑話】キリストトカゲ

バジリスクにちなんで名付けられた生物がいます。
生物分類「バシリスク属」。蛇ではなくトカゲです。

毒はありませんがこのトカゲ、雄にはトサカがあり、逃げる時は立ち上がって2足歩行になり、水上走りもこなします。
「雄」「トサカ」「2足歩行」あたりが、バジリスクを連想させたのでしょうね。

生息地では、水上歩行をしたというイエス・キリストになぞらえて、キリストトカゲとも呼ぶそうです。

救世主キリストにより倒される悪魔の象徴、バジリスク。
同じ名をもつトカゲが、図らずもキリストと呼ばれているのは、何かの因縁を感じますよね。

 

3.能力考察

バジリスクには多様な姿と能力がありますが、「見ただけで相手を殺してしまう魔眼」「強力な毒を持つ」という2点は共通しています。

特に魔眼は強力で、飛ぶ鳥に届くほど長射程。
即死系の魔眼は通常、相手と目を合わせなければ発動しないなど何か条件があるものですが、バジリスクの場合はほぼ無条件です。

いてあげるなら、相手に気づいてその方向を向くことが条件でしょうか。

一方、毒の力は息で石を砕くなど酸のように無生物にも効くとんでもない毒です。
そして触れた槍を伝うことから、電気あるいはスライムのように自力で動ける性質を持ち合わせている毒だということが判ります。

盾に隠れて近づいても盾が砕けてしまいますので、バジリスクに限っては正面から近づいて倒すという選択肢はありません。
倒せたとしても、返り血と一緒に毒を浴びて相打ちです。

鏡などの罠を仕掛けるか、巣穴にイタチを送り込む方法が安全です。
もしも罠の準備がなければ、気づかれないほど遠くから一矢で倒すしかありません。
失敗のリスクを考えると素直に逃げて出直すことが最良でしょう。


普通、ゲームや小説などに登場するモンスターは元ネタよりも強化される傾向にあります。
弱い相手に圧勝するよりも、強敵と接戦になる方がワクワクしますよね?

しかしバジリスクの場合は、しばしば弱体化されて登場します。
バジリスクに見られると即死。触っても即死。しかも、見通しの良い砂漠にいて接近が困難で、貴重な水を汚染する。
地の利は完全にバジリスクにあります。

あまりに強すぎて、まともな勝負になりません。
罠や狙撃など、どうしても見栄えの悪い戦法を取らざるを得ないのです。

そのため、視線の「即死」は「石化や麻痺」に。
「即死する毒」は「普通の毒(あるいは石化)」に。
「触れると武器を伝ってくる毒」「石を砕く息」「水を汚染する」「火を吹く」などの能力は、無かったことにするなど変更して、どうにかこうにか接近戦が出来るように工夫するのです。