アンフィスバエナ

双頭の蛇、アンフィスバエナ。
輪として描かれ、ウロボロスと間違われることがある毒蛇です。
中世頃にはドラゴンに変化し、紋章としても使われました。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
  3.能力考察
 

1.姿形

アンフィスバエナは古代ローマの博物学者にして軍人の、大プリニウスの著書「博物誌」に掲載された生物で、体の両端に頭をもつ蛇の姿をしています。

よく双頭の蛇と形容されますが、一般的な双頭である二股に分かれた頭では無いので注意。
博物誌には「毒を吐き出すのに、一つの口では足りないようだ」という説明が付いています。

このように、古代~中世初期頃までは実在すると思われていたアンフィスバエナですが、中世以降は空想生物として知られていきます。
姿の方もすっかり変化し、蛇の尾をもつ2足のドラゴンとして紋章に描かれることが多くなるのです。


なお、本によっては車輪のように輪になってころがる姿が描かれていて、ちょっとコミカル。
この姿は尻尾をくわえて輪になっている蛇、ウロボロスとそっくりで間違えやすいです。

ウロボロスのシンボルは「死と再生(復活)」や「永遠」「完全」を表し、指輪などのデザインで好まれますが、アンフィスバエナをデザインした指輪も存在します。
アンフィスバエナの頭は2つですが、ウロボロスの方は頭が1つだけなので、リングのつなぎ目で見分けましょう。

蛇は多産・金運など、基本的に縁起がよいデザインですが、双頭だと同性愛・両性愛などを連想させる場合もあるので、地域により注意が必要です。
(蛇が象徴するものはドラゴン参照)

「両方に進める」という名前の意味だけでも、色々誤解しやすいですからね・・・。しかもコイツは毒蛇です。
「油断すると、食べちゃうぞ(はあと)」的な意味に思われるかも。

ウロボロスがデザインされた(と思い込んでいる)指輪などを持っている人は、もう一度よく確認してみると良いかもしれません。

 

2.由来

アンフィスバエナの名前の由来は、ギリシャ語のアムピス(両方)と、バイナ(行く)を組み合わせた、アムピスバイナ(両方に進める)という言葉です。

博物誌の作者大プリニウスと同時代の人に、詩人ルカヌス(皇帝ネロにそむいたことで有名)という人物がいますが、彼の創作した叙事詩「ファルサリア」にもアンフィスバエナは登場します。

ユリウス・カエサルと元老院との間に起きたローマ内乱を描いたこの叙事詩では、カエサルの敵方を襲った蛇のうち1匹がアンフィスバエナでした。
ここでは、メデューサの生首からこぼれ落ちた血から産まれ、北アフリカの砂漠に住んでいるモンスターだと歌われています。
もしかすると、ルカヌスも「博物誌」を読んでイメージをふくらませたのかもしれませんね。

それから約500年後、中世のカトリック神学者にしてセビリャ大司教イシドールス(イシドロ)により、アンフィスバエナはきわめて寒さに強く、温血動物であるという補足が付け加えられました。
(ちなみにイシドールスは、インターネットの守護聖人でもある)

現代ではすっかりマイナーになったアンフィスバエナですが、古代においては日本で言うツチノコのような、ちょっと風変わりな未確認動物(UMA)と考えられていたのです。

 

3.能力考察

原点に近い、蛇としてのアンフィスバエナは頭が2つあるというだけの普通の毒蛇。

メデューサの子というわれはありますが、石化能力があるとはどこにも出てきません。

吐く毒に当たれば危険でしょうが、遠くから投石で撃退するなどで対処可能でしょう。

車輪のように転がってきたら、ちょっとびっくりするぐらい。
そんなに強くありません。

一発ギャグ的なモンスターですから、そのまんまのアンフィスバエナが小説やゲームで登場することは滅多に無いかもしれませんね。


さて話しは変わって、今度はドラゴンとしてのアンフィスバエナの場合です。
こちらは紋章に使うデザイン上、ドラゴンに変更されただけなので見た目以外に原点と違う能力はありません。

もちろんドラゴンですから、ただの蛇よりは格段に強いです。
とはいえ、由緒正しいまっとうなドラゴンと比べると見劣りするのは確かでしょう。

もっと活躍させたいから石化能力をと安易に考えてはいけません。
石化能力があり、毒蛇の尾を持つ・・・。この特徴、何か思い出しませんか?

そう、バジリスクやコカトリスといった有名モンスターと特徴が被るのです。
そんなわけで、自由な創作世界であってもアンフィスバエナは強くしづらいモンスター。

間違って強く設定してしまうと、転がり芸で笑いが取れなくなりますし・・・いや、転がる蛇相手に油断できない真剣勝負という、ちょっとシュールな場面になって逆に面白いかもしれませんね。