メデューサ

見た相手を石化させるモンスター、その代表がメデューサです。
元は神様だったメデューサは、古くから魔除けや絵画・創作のモチーフとして大変親しまれてきました。
現代でも、医療のシンボルやイージス艦の元ネタに関係しています。
今回は、その由来や能力など小ネタを交えて解説します。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
   【閑話】イージスの山羊
  3.能力考察
  4.小ネタ
  (1)アスクレピオスの蘇生薬
  (2)魔除けのメデューサ
  (3)メデューサの子供たち
  (4)アテナの母メデューサ
 

1.姿形

メデューサは、目を合わせた相手を石に変える目を持ち、毒蛇の髪をもつ女性のモンスターです。

基本的に人型ですが、かつてはイノシシの歯、青銅の手、黄金の翼を持っている有翼人として描かれたり、イノシシの胴と馬の下半身を持つ半獣人の姿で描かれることもありました。

 

2.由来

名前はギリシャ語のメドゥーサが語源で「女王」という意味。
メデューサは英語での発音です。
英語のメデューサには、クラゲという意味もあるので注意しましょう。

ステンノ(強い女)、エウリュアレ(広く彷徨さまよう)という2人の姉がおり、メデューサと3人合わせてゴルゴーン(恐ろしいもの)3姉妹と呼ばれます。

メデューサが個人名で、ゴルゴーンが渾名あだなといった所でしょうか。
2人の姉は不死ですが、メデューサはそうではないとされています。


ギリシャ神話におけるメデューサは、ポルキュース神とケト神の娘として産まれ、ロングヘアーが自慢の美少女でした。

ポルキュースとケトは、どちらも大地母神ガイアと海神ポントスの子です。
同じくガイアの子孫であるゼウスやポセイドンといった神々と、メデューサは従兄妹いとこ同士という関係。

メデューサを怪物に変えたのは女神アテナですが、アテナはゼウスの子ですから、メデューサとアテナも実は親戚にあたるのです。


美しかったメデューサは女神アテナによって怪物に変えられるのですが、その神話にはパターンが2つあります。

1つ目は、
メデューサとポセイドンの2人がアテナ神殿で密通したために、アテナの怒りをかって怪物に変えられてしまったというもの。
アテナは大神ポセイドンに手を出すことは出来ませんでしたが、メデューサと2人の姉はアテナの力にかないませんでした。

2つ目は、
メデューサが「自分はアテナより美しい」と言ったことで、アテナの怒りをかって怪物に変えられてしまったというもの。
こちらでは姉もポセイドンも登場しません。


そんなメデューサですが、元々の由来は先住民族が信仰していたメテュスという大地の女神で、海と大地の神ポセイドンとは夫婦でした。
パターン1のギリシャ神話には、その頃の名残なごりが見られますよね。

このメテュスは見たものを石に変えてしまうという、メデューサと同じ能力を持っていますが、人面蛇であり人型ではありません。

ギリシャ神話だけを見ると、
「美少女 ⇒ 怪物」と思いがちですが、先住民族の視点でみると
「蛇神 ⇒ 美少女 ⇒ 怪物」と言う、別の側面が見えてきます。

メデューサは、後から来たギリシャ人に美少女化されたうえで、怪物に変身するというちょっと面白い経歴の神様なのです。

 

3.能力考察

メデューサの能力は元々、姿を見たものを恐怖で動けなくしてしまうというものでした。
それが伝承されるうち、目を見たものを石化させるという能力に変化していったのです。

相手を見ずに戦うことは困難で、メデューサを倒せる者は誰もいませんでした。
神話でのメデューサはペルセウス(ヘラクレスのご先祖様)によって退治されてしまいますが、その時も正面から倒した訳ではありません。

鏡のようにみがかれた盾の内側に、目を閉じて眠っているメデューサを映し、後ろ歩きで近づいて首を切ったのです。
起きているメデューサ相手では、ペルセウスでも勝てなかったでしょう。


そしてもうひとつ、メデューサの石化には恐ろしい特徴があります。
死後も石化能力を失わないのです。

おとぎ話では、呪いをかけた相手を倒せば呪いが解けたりするものですが、メデューサにはあてはまりません。
石化が解けるどころか、メデューサの生首を見たものはやはり石化してしまうのです。

後にペルセウスは生贄にされたアンドロメダを救うため、海の怪物ケートスをメデューサの首をもって石化させます。
人間よりも強大な怪物であっても、メデューサの石化には抵抗出来なかったのです。


使命を果たしたペルセウスはメデューサの首を女神アテナに捧げ、アテナは自分の盾アイギスのおもてに首を据え付けました。
アイギスはメデューサの力を得て最強の盾と呼ばれるようになったのです。

このアイギスは英語でイージスと発音し、イージス艦の名前の由来です。

【閑話】イージスの山羊

アイギスという単語はもともと山羊皮の防具という意味で、アテナのアイギスは盾ではなく胸当てだったという説もあります。

かつて幼いゼウスをその乳で育てたアマルテイアという山羊がいましたが、この山羊の皮をつかって、鍛冶の神ヘパイトスがゼウスのために作った防具がアイギスです。
アテナの持つアイギスと、ゼウスのアイギスが同じものかは不明ですが、アテナはゼウスの娘ですから譲り受けていても不思議ではありません。

ちなみにアマルテイアの角は豊穣の角(コルヌ・コピアイ)とも呼ばれ、果物と花が湧き出てくると言われます。
それが転じて、この角には持ち主に望みのものを与える聖杯のような伝説もあるのです。

 

4.小ネタ

(1)アスクレピオスの蘇生薬

ギリシャ神話に登場する名医アスクレピオスは、死者を蘇生させたことで冥府の王ハデスから”世界の秩序を乱す”とされました。

彼はハデスの進言を受けたゼウスによって雷で撃たれて「へび使い座」になりましたが、このヘビの由来がメデューサなのです。

メデューサを倒したペルセウスは、首を切り落とした時に2つの瓶でその血を採取しアテナに献上していました。

右の血管から流れ落ちた血は、死者を蘇生する力。
左の血管から流れ落ちた血は、生者を殺す力がありました。

アスクレピオスはアテナからメデューサの血を授かり、薬を作っていたのです。

ちなみにアスクレピオスはヘビが巻きついた杖を持つとされますが、この杖は現代でも医療のシンボルとして使われています。

(2)魔除けのメデューサ

メデューサの首は都市の守護神アテナの盾にされた神話から、魔除けになると信じられていました。

そのため古代ギリシャやローマでは、一家に一台メデューサ印のかまどがあったり武具にメデューサを描くなど、とても身近なモンスターだったのです。

ローマ帝国の都市であったシリアのパルミラ遺跡でも、入り口の上にメデューサのガーゴイルが飾られていて日本の鬼瓦のルーツにもなっています。

古代人にとってメデューサは恐ろしいだけでなく、頼もしい味方モンスターだったのでしょうね。

(3)メデューサの子供たち

メデューサの子供たちはポセイドンとの間に産まれたとも、死後にメデューサの血から生まれたとも言われます。

空を翔る有翼馬ペガサスが有名ですが、他にも黄金の剣を持つ巨人クリュサオルが一緒に生まれています。

クリュサオル自身は結構マイナーですが、彼の子供エキドナから産まれたモンスターはケルベロスやヒュドラ、スフィンクスやキマイラなどなど、有名モンスターがたくさんいます。

ケルベロスたちは、みんなメデューサの曾孫ひまごということなんですね。

メデューサの血は創作のモチーフとして人気があり「この生き物はメデューサの血から生まれた」という、ある種の決まり文句のような解説がよく付きます。
神話だけでなく他の書物や叙事詩にも登場し、色んな生物・モンスターがメデューサの子ということになっているのです。

サソリをはじめとした毒をもつ生き物たちや赤サンゴなども、メデューサの血から生まれたとされています。

(4)アテナの母メデューサ

先住民族が信仰していた大地の女神メテュスがギリシャ神話に取り入れられ、メデューサの元になったという話しをしましたが、ギリシャ神話には、このメテュスが元になったとされる神様が、実はもう一人います。

それが、女神アテナの母である知恵の女神メティスです。


アテナが誕生する以前のこと。
ゼウスは最初の妻メティスとの間に子供が2人でき、その2人に王権を簒奪さんだつされると予言されていました。
そのためメティスが身ごもった時に、妻ごと子供を飲み込んでしまったのです。

しかし胎児は死なず、体内で成長してゼウスを苦しめました。
頭痛に耐えられなくなったゼウスは自分の頭を斧で割るよう命じ、頭の中から女神アテナが誕生したのです。

子供はアテナ1人のみ。
母がゼウスと一体となったため、メティスとの子では無くなりました。
悪い予言を回避したのです。

その後、女神メティスはゼウスの体内に残り善悪を予言する力をゼウスに与えました。


メデューサとアテナは、関わりの深い者同士です。
それはアテナがメデューサを怪物に変えたからだけではありません。

メデューサはアテナにとって、いなくなった母親のもうひとつの姿と言えるのです。