アクタイオンの猟犬

今回の記事は「おおいぬ座」「こいぬ座」の由来となったアクタイオンの猟犬りょうけんについてです。
はるか古代より、犬は人間の友でした。
しかし、女神アルテミスの怒りをかったアクタイオンは鹿しかに姿を変えられ、自分の友におそわれてしまうのです。

(目次)
  1.姿形
  2.由来
   【閑話】猟犬たちの名前
  3.能力考察
  4.小ネタ
  (1)農業王アリスタイオス
  (2)呪われたアウトノエ
 

1.姿形

アクタイオンの猟犬たちは、元々ごく普通の犬でした。
しかし、ある出来事をさかいに、あるじ殺しの狂犬へと変貌へんぼうしてしまうのです。

 

2.由来

ギリシャ神話に登場する王子アクタイオン。
太陽神アポロンの子アリスタイオスと、テーベの王女アウトノエの息子です。
彼はケンタウロスのケイロンから狩猟の技を学び、たくさんの犬を飼っていました。


いつも通り犬と一緒に狩りに出かけた彼ですが、その途中で女神アルテミスが水浴びしている所を見てしまいます。

怒ったアルテミスはアクタイオンの姿を鹿に変えたうえ、犬たちに魔法をかけて狂乱きょうらんさせました。
くるった猟犬たちは、目の前の鹿が主人であると気づかずに追いかけ、とうとう殺してしまいます。

犬たちは主人を探してさまよいつづけ、最後にケイロンの住む洞窟にたどり着きます。
放浪ほうろうする彼らを見かねたケイロンは、亡きアクタイオンの銅像を作り、猟犬たちをしずめました。


ちなみに、アルテミスを怒らせた理由は諸説しょせつあり、はだかのアルテミスに狼藉ろうぜきを働こうとしたからとも、アルテミスよりりがうまいと自慢じまんしたからだとも言われます。

【閑話】猟犬たちの名前

アクタイオンの猟犬たちは、詩人オウィディウスの著書ちょしょ「変身物語(メタモルフォーゼス)」に、名前が記しるされています。

犬の名付けに困った時などに使えるかも?
(英wikiをフィーリングで訳したものなので、発音が間違っていたらすみません)

民間伝承をかき集めたのか、自分で名付けたのかは不明ですが、どちらにしても大変な作業だったでしょうね。

〔変身物語からの出典〕
 (性別不明)
メランパス、イクノバート、パンファゴス、ドロセウス、オリバソス、ネブロフォノス、ララップス、セロン、プテレラス、ハイレウス、ラドン、ドロマス、ティグリス、レウコン、アスボロス、ラコン、アエロ、スゥース、ハルパロス、メラネウス、ラブロス、アルカス、アルジオダス、ハイラクター
 (雌)
アグリ、ナプ、ポエメニス、ハーピア、カナチェ、スティクテ、アルチェ、ライシスチェ、ラクネ、メランカエテス、テロダマス
〔その他からの出典(出典不明も含む)〕
 (性別不明)
アカマス、シルス、レオン、スティボン、アグリウス、チャロプス、アーソン、コルス、ボレアス、ドラコ、エウドロマス、ドロミウス、ゼフィラス、ランパス、ハーモン、サイロポーデス、ハーパリカス、マシムス、イーネウス、メランパス、オードロマス、ボラックス、オーソウス、パシラス、オブリマス
 (雌)
アルゴ、アースーサ、ウラニア、テリオペ、ディノマク、ディオシッペ、エシオン、ゴルゴ、サイロ、ハーピア、リンチェステ、ラーナ、ラケーナ、オシペテ、オシドローメ、オクシロー、オリアス、サグノス、セリフォーン、ヴォラトス、チェディアートロス

 

3.能力考察

犬はかしこい生物ですが、だからといって訓練くんれんなしに人と一緒に狩りをすることは出来ません。
一口ひとくちに猟犬といっても、その役割は様々です。

視覚しかくで探す、嗅覚きゅうかくで探す、足止めする、狙撃そげき場所に追い立てる、格闘かくとうして倒す、仕留しとめた獲物えものを回収するなどなど。
向き不向きもありますので、特性を見極みきわめつつ訓練しなければなりません。

多くの犬を引き連れて狩りをするということは、それだけ多くの時間を犬と共にすごし、愛情をもってしつけをしているということでもあります。

一匹で何でもこなせる天才犬はいませんが、群れの力を合わせれば、何でも出来る自慢の犬たちだったことでしょう。


ちなみに、猟犬は数が多ければ大きな獲物を格闘で仕留められると言われています。

一説には、アクタイオンの猟犬は全部で50頭。
これだけいれば、熊やライオンも倒せたかもしれませんね。

 

4.小ネタ

(1)農業王アリスタイオス

アクタイオンの父アリスタイオスは、太陽神アポロンと、キュレネという女性の子です。

アリスタイオスは、養蜂ようほうやオリーブ栽培さいばい、チーズ製法、圧搾あっさく技術を伝えたとされ、一部地域ではゼウスやアポロンと並んで信仰されているほど人気がありました。

どの技術も一大産業ですよね。
もしアリスタイオスの伝説が本当なら、古代ギリシャの農業に革命を巻き起こした人物と言えるでしょう。


ちなみに、彼の息子アクタイオンが、ケンタウロスのケイロンに弟子入りしたのは偶然ぐうぜんではありません。
ケイロンはアポロンの叔父おじであり、仲人なこうど役だった縁があるんです。

むかしラピテス族の女性キュレネは、ライオンを素手すでで倒すというスゴイことをしました。
ちょうどそのシーンを見ていたアポロン神は、彼女にひとめぼれしてしまい、叔父のケイロンに相談に行きます。

ケイロンにうらなってもらったところ「結婚けっこんするときち」だと出たため、アポロンは彼女にアタックし、めでたくゴールイン。

2人の間に、アリスタイオスが生まれるのです。

【補足】
ケイロンはゼウスの異母兄弟で、ゼウスの子アポロンとアルテミスの叔父にあたります。

またケイロンは、アポロンとアルテミスの弟子でもあり、詩や医療、予言の技はアポロンから。狩猟の技はアルテミスから学んでいます。
予言の師匠アポロンが、わざわざ弟子のケイロンに占ってもらったということは、自分のことは占えないからなんでしょうね。

また、キュレネの出身ラピテス族は、ケンタウロス族のルーツとなった部族ですから、ケイロンはキュレネとも縁があるのです。

(2)呪われたアウトノエ

アクタイオンの母アウトノエは、テーベ王カドモスと女神ハルモニアの娘です。
(ちなみにハルモニアは、軍神アレスと美の女神アフロディテの娘)

カドモスはフェニキア王子であり、テーベ国の始祖で、数々の伝説をもっています。

ゼウスにさらわれた姉妹のエウロペを探して冒険したり、建国の邪魔となった大蛇を退治したり、その牙から生まれた兵士スパルトイを従えたり、蛇を倒したつぐないに軍神アレスの奴隷となったり、アレスの娘ハルモニアと結婚したり、退位後に異国で指導者に選ばれ戦争したり、最後はハルモニアと一緒に蛇に姿を変え、楽園に移り住んだり・・・。

アウトノエは、そんなスゴイ人の娘でした。

しかし、その生涯しょうがいは不幸の連続です。
息子のアクタイオンを亡くしただけでは、終わらなかったのです。


アクタイオンが亡くなった後のこと。

カドモス王が退位した時、テーベの王座はカドモスの孫ペンテウスが継ぎました。
しかしペンテウスは、ふらりと現れたディオニュソス神の信仰を拒んだため、母とその姉妹に呪いをかけられてしまったのです。

その呪われた姉妹の中に、アウトノエもいました。
狂気におちた彼女たちは、ペンテウスをきにしてしまったのです。

息子を亡くし、おいっ子を手にかけてしまうという不幸にえ切れず、アウトノエは神に呪われた地テーベを去り、メガラ国に移り住みました。


ゼウスと並ぶ信仰をうけたアリスタイオスの妻にしては、なんとも悲しい最後ですよね。