スフィンクス

スフィンクス。
エジプトの像が有名ですが、ギリシャ神話でも謎々を出題するモンスターとして登場します。
また、人面だけでなく鳥や羊頭などいくつか種類があるのです。

(目次)
  1.姿形
  (1)ジノスフィンクス
  (2)アンドロスフィンクス
  (3)ヒエラコスフィンクス
  (4)クリオスフィンクス
  2.由来
  3.能力考察
 

1.姿形

冒頭お伝えしたとおり、スフィンクスは一種類ではありません。
それぞれ姿が異なりますので順番に見ていきましょう。

(1)ジノスフィンクス

まずは女性型のスフィンクスを紹介します。ジノはギリシャ語で雌という意味。
ギリシャ神話に登場しますが、小像や絵はエジプトや中東メソポタミア文明からも出土しています。

その姿は女性の上半身に獅子の下半身(2脚)、背から鳥の翼を生やしているというもの。
他にも、人の腕は持たず肩から翼を生やしていたり、獅子の下半身が4脚という場合もあります。

蛇頭の尻尾を持つパターンもあり、身長はおおむね人間サイズで描かれます。

ジノスフィンクスの父はテュポーン、母はエキドナとされ、ケルベロスヒュドラキマイラたちとは兄弟姉妹です。


ギリシャ神話では堕落したテーベ(テーバイ)人への罰として、ゼウスの妻、女神ヘラによって地上につかわされたモンスター。

「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これはなんだ?」

この有名な謎々は、ジノスフィンクスが出したものです。
スフィンクスは答えられなかった人々を食べてしまい、ついには退治に来たテーベの王様まで犠牲になります。
その後しばらくして、オイディプスという人物がやってきて、この命がけの謎々に挑み正解しました。

答えは「人間」それを聞いたスフィンクスは崖から飛び降り、オイディプスはテーベの新王となりました。


なお、スフィンクスには子供を誘拐したり、戦死者を見守るという伝承もあります。

エジプトでのスフィンクスは冥界の入口を守る聖獣です。
ギリシャ版での戦死者を見守るというお話は、これが変化したものなんでしょうね。

【補足】
テーベと呼ばれる都市は2つあり、1つはギリシャ中央にある都市。
2つ目は、エジプトのナイル川中流にある都市です。

ギリシャ神話に出てくるのは、ギリシャのテーベ。
堕落というのは……その……成人男性と少年が同棲する風習があったからでしょう。


ちなみにオイディプスの正体は前王の息子。
このことは本人も知らず、前王の妻、つまり自分の母と結婚してしまいます。
その結果、あらたな悲劇が起こるのですが、これはまた別のお話。

なお、スフィンクスの出自には別バージョンもあり、実はテーベ王の娘でオイディプスとは兄妹だったという伝承もあります。

(2)アンドロスフィンクス

こちらは男性のスフィンクス。アンドロは雄を意味します。
エジプトはギザのピラミッド近くにある、大スフィンクスが有名ですよね。

大スフィンクスは男性の頭に獅子の体(4脚)というシンプルな姿で、王であることを示すネメスという頭巾をかぶっているのが特徴。
像のサイズは高さ20m、幅6m、全長は73.5mにも及びます。

エジプトの王族は神様の末裔まつえいとされますから、スフィンクスは王像であると同時に神像でもあります。

カフラー王のピラミッドを守るような配置にあり、このスフィンクスはカフラー王の顔を模したものだとされていますが、あまり似てないだとか、獣っぽい顔だよねとか、太陽神ラーの姿でしょ?といった俗説も。

カフラー王より前の時代からあったという説もあり、その由来は判明していません。


この大スフィンクスは西方の守護者で冥界の入口を守っているとされ、古くから信仰を集めていました。
冥界の入口を守護する獣という所が、ギリシャ神話のケルベロスと似ていますよね。

実はエジプトとギリシャ、地中海の対岸にある隣国同士なので、お互い影響しあっているんです。


なお、スフィンクスが日本の狛犬の由来になったという俗説もありますが、これは間違いだそうです。

(3)ヒエラコスフィンクス

はやぶさ(あるいはわし)の頭に獅子の体(4脚)をもつスフィンクス。
ヒエラコスフィンクスという呼び方は、ゲーム「ダンジョン&ドラゴンズ」で広まったもので古い文献には出てきません。
名前は推測ですが、ギリシャ語で「聖なる」という意味をもつヒエロスが元と思われます。

このスフィンクスは、太陽神ラーの息子であるホルス神の一形態という説が有力です。

ホルス自身も太陽神であり、父のラーと同一視されることがあります。
普段のホルスは隼頭をもつ人の姿をしており、ホルアクティ「地平線のホルス」と呼ばれますが、日の出の時は特別にホル・エム・アケト(またはハルマキス)「地平線における(重なる)ホルス」と呼ばれ、その瞬間はスフィンクスの姿になると伝えられているのです。

ホル・エム・アケトが隼頭のスフィンクスかどうか、実は確定していないのですが、関連があると考えるのが自然でしょう。


他のスフィンクスよりも登場時期が遅く、インド発祥のドラゴンがメソポタミア経由で伝わり、エジプトではこのヒエラコスフィンクスに、ギリシャではグリフォンに変化したという説もあります。

(4)クリオスフィンクス

雄羊の頭に獅子の体(4脚)をしたスフィンクス。
この呼び方は、ゲーム「ダンジョン&ドラゴンズ」で(以下略)。

ギリシャ語で雄羊をクリーオスと呼びますので、本来はクリオスフィンクスなのかもしれません。
ちなみに雌羊のことは、ギリシャ語でオイスと言います。

エジプトテーベの神殿群、カルナック神殿からルクソール神殿に至るまでの参道には、このクリオスフィンクスが並んでいます。


クリオスフィンクスは、テーベの太陽神アメンの化身とされています。
アメン神はテーベの守り神。大気の守護神で豊穣の神でもあります。

後に太陽神ラーを信仰するヘリオポリスからテーベに首都が移り、同じ太陽神のラーと同一化して 湯をそそいで3分間待ち 「ラー=アメン」へと姿を変えました。


このアメン神、ギリシャではアンモーン神と呼ばれており化石アンモナイトの由来にもなっています。

アンモーン神(Ammon)の鉱石(-ite)でアンモナイト(ammonite)です。

命名は18世紀に入ってからですが、渦巻き模様が羊の角にそっくりだったからというほかに、古代ローマの文献「博物誌」で、エチオピア(エジプトの南にある国)の聖石だと紹介されていたため、エジプト由来の神様にちなんで名づけられたそうです。

エジプトの神々は日本ではあまり知られていませんが、ヨーロッパ文化ではあちこちに取り入れられているのです。
悪魔アモンの由来がこのアメン神だという説もあるんですよ。


ちなみに、アメン神はギリシャに伝わった時にゼウスと訳されたそうです。
クリオスフィンクスは、ギリシャ人にとってゼウスの化身と思われたのでしょうか。

ギリシャ神話のゼウスは白牛に変身したり金羊を遣わしたりしますが、もしかするとアメン神が由来かもしれませんね。

 

2.由来

名前はギリシャ語のスピンクス。
「束縛するもの」「絞め殺すもの」といった意味があるとされますが、元々は古代エジプト語のシェセプ・アンクがギリシャに伝わってなまったものだという説もあります。

シェセプは姿、アンクは再生・復活神を意味し、転じて「復活神の像」あるいは「生きている像」といった意味だと考えられています。

このシェセプ・アンクという言葉は特定の怪物を指すのではなく、神様や王様(ファラオ)の像を指して使っていた言葉。
意訳するなら「生き写しの像」「そっくりな像」といったところでしょうか。

エジプトのスフィンクスは、王様の顔を模して作られています。
この像は何だと聞かれた時に、当時のエジプト人が「王様の像」という意味でこれはシェセプ・アンクだと説明したところ、
正しく聞き取れず、スフィンクスという名前の怪物であると勘違いした可能性がありそうですね。

昔は○○王の像というように、それぞれの名前で呼んでいたのでしょう。
怪物とは考えておらずモンスターとしての呼び名なんて無かったのかもしれません。


ちなみにスフィンクスは、アラビア語でアブ・ル・ハウル「畏怖の父」と呼ぶそうです。
こちらの方が元の意味に近いんでしょうね。

 

3.能力考察

ギリシャのスフィンクスは知恵を試す神の使い。
一見すると人間サイズで女性なので、なんとか勝てそうに思われます。

しかし王様が謎々に答えられなかったとき、近衛の兵士たちでも守りきれず、結局食べられてしまいました。

テーベは小国ではありません。アテネやスパルタと並ぶ都市国家。
大国の精鋭が勝てなかったモンスターですから、十分強いことが伺えます。


一方、エジプトのスフィンクスは太陽神の化身です。
神話では、戦争を象徴する嵐の神セトですら太陽神ホルスに敗北しています。

エジプトのスフィンクスは、戦神と同等以上の強さを誇るのです。